コラム

日米首脳会談で示されなかった、南北和解後の未来ビジョン

2018年04月20日(金)15時40分

今回の会談は北朝鮮問題への対応で日米が一致したと日本では評価されているが Kevin Lamarque-REUTERS

<安倍・トランプ会談について、日本では北朝鮮問題への対応で一致したという評価があるが、実際には日米は今後の東アジア情勢について何らビジョンを共有していない>

日米首脳会談が終わりました。アメリカメディアの反応としては、あくまで米朝首脳会談の準備作業という位置付けで報道されています。ですから、テレビにしても新聞にしても「ポンペオCIA長官が極秘訪朝していた」というニュースがメインで、そのなかで安倍首相夫妻の写真が出たり、首脳会談があったと言及されたり、そのような扱いでした。

その扱いも決して大きくなく、「サウスウェスト航空機のエンジン爆発事故」とか、「バーバラ・ブッシュ氏への追悼」といったニュースに完全に隠れた感じでしたし、ここのところ激しくなっている、「トランプ大統領のスキャンダル報道」にも負けていました。

では、今回の首脳会談については、どのような評価ができるのかというと、日本での報道では「通商問題ではアメリカがTPPに乗ってこず、二国間交渉に誘導された」ので懸念が残るが、その一方で「北朝鮮問題では拉致被害者奪還への言質が取れ、しかも核放棄だけでなく短距離ミサイルの放棄まで交渉に入れてもらえるよう」なので満額回答だというような見方があるようです。

ですが、私にはこの見方は逆のように見えます。まず通商問題ですが、どうしてトランプ政権が「日米貿易赤字」にこだわるのかというと、コア支持者の感情論を煽るのが目的だからです。とにかく80年代のレトロ感覚で「昔イヤな思いをさせられた日本をやり込めるとスカッとする」という「高齢者向けの言葉遊び」であり、それ以上でも以下でもありません。

要するに、国際分業時代のアメリカ経済を理解した上での国益追求ではないのです。では、内容のない言葉だけの脅迫かというと、必ずしもそうではなく、80年代の記憶からくる感情論に火をつけることのメリットが緻密に計算されているので、トランプ側としては簡単に引っ込められない性格の「難クセ」です。

そう考えると、無理にTPPで押すこともなく、また安易にFTAについての具体的な交渉を約束するのでもなく、「曖昧な二国間交渉」をするという話にして「見事に先送った」というのは、安倍政権としてはファインプレーだと思います。時間軸を計算するのであれば、中間選挙で負ければ政権基盤は動揺して景気も弱体化するでしょうし、「日本叩きなどする暇はなくなる」可能性が大きいからです。

その一方で、北朝鮮問題の協議には不安を感じました。というのは、今回の首脳会談を通じて「非核化後の北朝鮮を含む、東アジアのビジョン」というものがまるで浮かび上がってこないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アマゾンと米郵政公社、「ラストマイル配送」契約更新

ワールド

トランプ政権の対中AI半導体輸出規制緩和を禁止、超

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米利下げ観測で5週ぶり安

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、FRBの利下げ期待が支え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story