コラム

日本で誤解されている都市型リゾートのビジネスモデル

2018年02月27日(火)18時00分

マリーナ・ベイ・サンズのカジノフロア Pablo Sanchez-REUTERS

<シンガポールに代表される都市型の統合型リゾートでは、収益の柱は国際会議で、カジノは余暇を楽しむサービスとして提供されているだけ>

巨大ホテルにカジノなどの娯楽施設を併設した、統合型リゾート(Integrated Resort, IR)というのが日本経済の浮揚には必要だという議論がありますが、これに対して「カジノの解禁はギャンブル依存症を生み出す」という反対意見もあります。

例えば、先行しているシンガポールのカジノの場合は、自国民には高額な入場料を課しており、依存症と思われる事例にはケアを行うなどの方策を取っています。というのは、ギャンブルの依存症というのは厄介な問題だからです。

他の依存症が「リスクや不安感情に負ける」という「人間の弱さ」に由来するものが多い一方で、ギャンブルの場合は「自分だけは勝てる」という根拠のない自信を抱いてしまうという複雑な心理の病だからです。ですから、まさにシンガポールが実践しているように、「あくまで外国人向けのちょっとした遊び場」という環境にしておいて、弊害を何らかの規制で抑え込むということは必要でしょう。

その一方で、このIRというのは一体どのようなビジネスなのかという点を考える必要があると思います。世界的に見て、IRには2種類あると考えられます。リゾート型と都市型の2種類です。

リゾート型の方は、カリブ海などが典型ですが、観光地に建設して休暇をそこで過ごすというタイプのものです。こちらについては、日本でも北海道や九州などで熱心な誘致活動がされているようですが、私はあまり可能性を感じません。というのは、「他にもたくさん選択肢がある」中で「あえて日本で休暇を過ごす」ことを選ぶような層は、欧米系にしてもアジア系にしてもカルチャー志向か自然志向であって、「ギャンブル」の市場とはあまり重ならないからです。

その一方で、可能性ということでは都市型の方がありそうです。この都市型IRということで言えば、他でもないシンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ(MBS)」という巨大施設がモデルになると思います。では、このMBSというビジネスでは、カジノが収益の柱かというとそうではありません。

都市型IRの収益の柱というのは国際会議です。国際会議というと、国連やG20などの公的機関によるものを想像しますが、それだけではありません。収益モデルとしては、民間ベースの国際会議というのが、一番の柱になると思います。

どういった内容かというと、各業界における先端技術関連のディスカッション、そして規制やルール作りのためのディスカッションといった種類のものです。例えば、今年の場合ですと、自動運転車やフィンテックに関する国際会議というのは「旬の話題」であって、世界中で大小の会議が行われています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、国民に「直接資金還元」する医療保険制度

ビジネス

MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに最大

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

中国過剰生産、解決策なければEU市場を保護=独財務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story