コラム

ダボス会議でも一般教書でも、トランプが真面目モードだったのはなぜ?

2018年02月01日(木)11時40分

ところが、今回1月の後半には、まずダボス会議で「アメリカ・ファーストは世界の繁栄あってこそ」などという、およそ「らしくない」真面目モードの演説を行って、世界を「安心」させました。では、自国に戻って30日(現地時間)の晩に行われた「年頭一般教書演説」はどうだったのかというと、これも「社会の和解が大事」だとか「不法移民の若者に市民権を与える道を」といった内容も含めて「真面目モード」であり「ソフトタッチ」でした。

つまり、今回は「2回連続」で「真面目モード」だったわけで、これはこの大統領にしては、かなり異例なことだと思います。その原因を考えてみることにします。

1つは、「就任式」という大舞台と比較すると、「ダボス会議」とか「一般教書演説」というのは、視聴率は低いわけです。もっと言えば、ニュース好きの人が見るものであって、コアの支持者はあまり関心を向けない場であるとも言えるでしょう。そう考えると、どちらも「あえて暴言モードにする必要はなかった」のかもしれません。

2つ目は、今回の一般教書演説でも議場の前の席に陣取っていたケリー首席補佐官が、「とにかく、2回とも真面目モードで」という方針で、強くクギを刺したという可能性です。ケリー補佐官の表情はかなり厳しかったので、かなり強く仕切ったということもあるのかもしれません。

3つ目ですが、景気や株価に少しスローダウンの気配があることが考えられます。仮にそうした流れが一気に強まって、株安から景気の悪化へと進めば、アメリカ社会では雇用に悪影響が及ぶのに時間はかかりません。そうなれば、政権の基盤は大きく揺さぶられることになります。その危機感から「真面目モード」を繰り返した可能性もあります。

この中で気になるのは3番目です。順調だったアメリカ株も、ここへ来て企業業績への警戒感などから足踏み状態が続いています。そのような環境を踏まえて、連銀は利上げを見送りました。ある意味で、就任以来続いて来た「トランプ景気」に停滞の兆しが出てきたと言ってもいいでしょう。

この11月には中間選挙があります。仮にそれまでに景気が大きく崩れてしまうと、与党大敗という可能性もゼロではありません。そう考えると、「和解のメッセージ」が市場の不安を解消した2016年11月の「経験則」を踏まえて、「真面目モード」を続けているというのは、政権にとっての危機感の表れなのかもしれません。ケリー補佐官の表情が、それを物語っていたとも言えます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ニデック、延期していた第1四半期決算14日開示へ 

ビジネス

JX金属、今期業績を上方修正 AI需要で半導体材料

ビジネス

出光、26年3月期予想を上方修正 純利益27%減の

ワールド

米韓合意の文書いまだ発表されず、潜水艦問題で難航か
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入…
  • 8
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story