コラム

ラスベガス乱射事件、史上最悪の犠牲にも動かない銃規制議論

2017年10月05日(木)12時20分

ラスベガスの現場近くの道路上に掲げられた射撃場の広告 Lucy Nicholson-REUTERS

<米史上最悪の銃乱射事件の発生を受けても、銃規制に向けた積極的な動きは見られない。当面の焦点となるのはその中でも些末な2つの問題>

10月1日にラスベガスで発生した乱射事件は、犠牲者58人、負傷者500人以上という空前の惨事となりました。過去最悪の犠牲者数、そして連射が可能に改造された強力なアサルト(攻撃用)ライフルが使用されたことなどを考えれば、銃規制の論議が起きるのは当然です。

ですが、現時点では議論は盛り上がっていません。その背景には2つの理由があります。1つは、現在のアメリカはトランプ政権、つまり「銃保有の権利を保障する」ことを公約に掲げて当選した政権の時代であることです。そのトランプ大統領は、10月4日にラスベガスを訪れていますが、ひたすら犠牲者への弔意を示し、警察の対応を賞賛するだけで、銃規制に関しては一切言及しませんでした。このトランプ政権の下では、銃規制の強化は難しいだろうという「空気」がアメリカでは濃厚です。

もう1つは、今回攻撃の対象となり多くの犠牲を出したのが、「アメリカ中西部が本場のカントリー音楽祭」だったということです。参加していた男性の多くがカウボーイハットをかぶっていたことに象徴されるように、極めて保守的なカルチャーの集団が狙われたことになります。

ですから、犠牲者やその家族の多くが銃保有派であることが考えられます。2012年にコネチカットの小学校で乱射事件が起きた時には、犠牲になった子どもたちの家族から銃規制運動が立ち上がりましたが、今回はそうした可能性は低いでしょう。

現地ラスベガスでは、ひたすらに「犠牲者を追悼し、負傷者の快癒を祈り、警察・救急など事件処理に当たった人々を顕彰する」という動きが続いています。4日に現地入りした大統領も、その動きに乗るだけでした。ワシントン・ポスト紙などは、「追悼し祈るだけ」なのは「(死者への)冒涜ではないのか?」という厳しい提言をしていますが、実際問題として、多くの保守派が「事件を契機とした銃規制論議」への警戒感を強める現状では、「分裂を避ける」ためには沈黙せざるを得ないという雰囲気が濃厚です。

そうは言っても、これだけ多数の人命が奪われた以上、銃の販売方法に関する議論は避けられません。

現時点では、銃規制に関する議論は当面、以下の2点に集約されています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story