コラム

南北統一後の朝鮮半島を「反日国家」にさせないために

2017年03月16日(木)16時15分

これは韓国にとっては大変にリアルな前例となっています。韓国の人々はその誇りにかけて、再統一時にはこの条件を実現したいと思っている一方で、これを可能にする経済力は韓国には足りないことも痛いほど感じています。また、仮に実現できずに、不平等な形で北の住民との合邦を行えば、統一後の社会が著しく不安定になることも、長年の検討の結果、韓国の政府や知識人たちは覚悟しています。

仮に、このような北の住民を公平に遇するような「膨大なコストのかかる統一」を実行すれば、現在の韓国の経済では支えられないおそれがあり、せっかく再統一された朝鮮半島は、内部に大きな不安定要因を抱え込むことになります。そこで、日本を敵視することで国家の求心力、国論の統一を図ろうという為政者が登場する可能性は、残念ながら否定できません。

そうなれば、日本はバランス・オブ・パワーを維持するために、経済的にも政治的にも膨大なコストを払わざるを得ないことになります。日本国内の世論は割れ、社会も不安定化するかもしれません。産業の国外流出は加速するでしょう。経済の停滞に苦しんでいる日本にとっては大きなダメージになります。

【参考記事】金正男の長男ハンソル名乗る動画 身柄保全にオランダが関与か

そう考えると、日本の戦略としては以下の2点が重要になってきます。

1点は、北朝鮮という国を何とかもう少し維持してもらい、国家の崩壊による性急な統一という悲劇を回避することです。仮に、今日の時点で統一は不可能、そのように国際社会と韓国が理解しているのであれば、北朝鮮に関しては「何らかの形で安定化」しつつ「緩衝国家として残す」ことが具体策になります。

2点目としては、まず日米が腹を割って話し合い、不必要な米国側から北朝鮮への挑発を止めさせるべきです。その上で、日米の立場が完全に擦り合わせられたところで、中国を入れて日米中で合意形成を行うことです。そして、韓国の新政権にもその政策を受け入れてもらわなければなりません。

トランプ政権下のアメリカが極端に内向きになっている現在、日本はよりハッキリした戦略を持って動くべきです。間違っても、日米中の3カ国が韓国の新政権と良い関係を築けず、韓国を孤立させて北朝鮮に接近させるようなことがあってはなりません。

今後の対韓国外交は、日本にとっても緻密さと粘り強さが求められる特殊な局面になるでしょう。例えばですが、現時点では駐韓の長嶺大使が一時帰国中ですが、新大統領が決まった時点で間髪を入れずに再赴任して関係修復を図る(もっと早期に戻るという策もありますが)など、事態に対してイニシアティブを取りつつ、戦略的に動くことが重要だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トヨタが通期業績を上方修正、販売など堅調 米関税の

ビジネス

アングル:米アマゾン、オープンAIとの新規契約でク

ワールド

ウォール街、マムダニ氏の「アフォーダビリティ」警戒

ビジネス

訂正マネタリーベース、国債買入減額で18年ぶり減少
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story