コラム

安倍首相の真珠湾訪問は、発表のタイミングもベスト

2016年12月06日(火)12時20分

(7)一方のオバマ大統領としても、クリスマス後の休暇を自分の故郷であるハワイで過ごすというのは、一家の慣習になっているわけで、その延長上での真珠湾献花というのは、まったく不自然なところがありません。

(8)結果的にオバマ大統領のレガシーになるわけですが、例えばベトナムへ行ったり、キューバと復交したりしたことも含めて、「オバマという人はアメリカの謝罪行脚ばかりやっている」と、保守派の不興を買っている面があります。中でも、広島訪問に関しては保守派の中で「深く静かに不快感」が浸透しているわけで、そこで安倍首相が真珠湾に行って相互性を確保し、それに大統領が同行するというのは、任期の幕切れにあたって「誰も批判できない」効果的なレガシー作りになるわけです。

(9)保守派の「広島訪問批判」の中には、原爆投下を正当化し、昭和天皇の評価を毀損する意図で書かれたビル・オライリーの『ライジング・サンを殺せ』(今年9月発刊)のようなプロパガンダ本などもあり、かなり気になっていました。それと、トランプ氏の「安保条約は不公平」とか「日本に雇用を奪われている」という「レトロ調のアジテーション」がシンクロする危険もあったわけです。今回の「相互・共同献花外交」は、そうした懸念を払拭する大きな効果が期待できます。

【参考記事】トランプ・安倍会談で初めて試される次期大統領の本気度

(10)天皇皇后両陛下の「アシスト」もあると思います。両陛下は、新婚時代に成婚記念の植樹をされていたり、ハワイへのご訪問を繰り返しておられます。その際には必ず、真珠湾を見下ろす国立太平洋記念墓地(パンチボウルの丘)で献花されて来ました。直近のものとしては2009年にも行かれていますが、この時も含めて真珠湾での献花は控えてこられました。それは「憲法の精神からは民意によって選ばれた首相が行くべき」という点を考慮されてのことだったと思います。両陛下の自制が、これで生きることになりますし、今後は天皇皇后両陛下の真珠湾献花も可能になると思います。

(11)衆院議長当時の河野洋平氏が先例をつけた事実もあります。2008年に現職の衆院議長として、真珠湾献花をしていますが、この年にG8下院議長会議が広島で行われた際にナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が広島での献花をしていることに対して、相互献花を行ったものです。

(12)直近のものでは、安倍昭恵夫人が今年8月22日に真珠湾献花をしています。これには「原発や沖縄」のように、「夫妻で政治的ポジションの左右に対して別々に支持を拡大」する一種の作戦ではないか、という「うがった見方」もありましたが、今となっては重要な伏線となりました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story