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15年の経過とともに、忘れられつつある9・11
その時にニューヨーク市長として見事に「仕切った」のがルディ・ジュリアーニでした。特に、この人は不明者の家族、犠牲者の遺族から「聖(セイント)ジュリアーニ」と言われるほどの尊敬を受けたのです。事実、その仕切りは実務的に素晴らしく、それゆえに傷ついた人々の琴線にも触れたのでした。
いわば「9・11の象徴」とも言えるジュリアーニ氏は、今はトランプの熱烈な支持者に転じ、今回の慰霊式典では、元市長というよりもトランプの介添え役として登場しました。そのジュリアーニ氏は、演説会では徹底的にヒラリーを攻撃するのを売り物にしており「オバマ=ヒラリーのおかげで、アメリカは史上最悪のテロ脅威に晒されている」などと怒鳴るのです。
まるで「9・11などなかったかのような」このジュリアーニ氏の口ぶりにも、やはり「忘却」という言葉が当てはまるように思います。では、どうしてジュリアーニ氏は「9・11を忘れたかのように振る舞いつつ、トランプを熱烈に支持している」のでしょうか?
ジュリアーニという人は、2008年の大統領予備選において有力視されていましたが、予備選の序盤で撤退を余儀なくされています。ニューヨーク出身として、共和党候補の中では左派とみなされていた中で、「宗教保守派」などから徹底的に攻撃されて失速したのです。
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どんな攻撃を受けたのかというと、2つありました。一つは、ニューヨーク出身ということで「中絶容認」ではないかという非難を受けた点です。もう一つは、この人は2回離婚して3人目のジュディス夫人と結婚したばかり(入籍は9・11の後)だったのですが、そのことを「家庭破壊者」だとして追及されたのです。
この2点は「保守でなければ予備選には勝てない」という共和党内では、決定的でした。撤退時のジュリアーニ氏は実に悔しそうで、夫妻としては相当な怨念を抱えているというムードでした。
その点で、ニューヨーカーとして「中絶容認」を掲げ、「三度目の結婚」をして胸を張っているトランプが、宗教保守派を含む「共和党の本流」を叩きのめして統一候補の座を射止めたことに、この知的な政治家の奥深いところにある復讐の心理に共鳴する「何か」があるのではないかと思います。
仮にそうだとしても、その結果として「9・11」後の危機管理のキーマンであった人物から、「オバマ=ヒラリーがアメリカを史上最も危険な状態にした」というセリフが飛び出すのは、「9・11を忘れた」言動であることに間違いありません。
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