コラム

ドローン時代の入り口に来たアメリカ

2015年04月23日(木)10時50分

 最大の問題は、アメリカによる戦闘地域でのドローンの「超法規的使用」がすっかり定着してしまっていることです。アフガニスタンで、イラクで、そして現在はシリアやイエメンで、遠く離れたアメリカのCIA基地などから遠隔操作されたドローンが、テロ容疑者の拠点への攻撃や個人の暗殺に使用されています。国際法が未整備であることを突いた一方的な行為であり、民間人への誤爆なども起きているのは問題です。

 アメリカ国内でも、ドローンの犯罪への使用という事例が出てきています。ニューヨークタイムズの報道によれば、サウスカロライナ州の刑務所では、マフィアなど犯罪組織の受刑者に対する「違法な差し入れ」の手段としてドローンの使用が横行しているそうです。

 刑務所を何重もの塀で覆っても、空から侵入したドローンが中庭などに「配達」をすることが可能になっており、バースデーケーキから麻薬まで様々な「差し入れ」が飛び交っているのだそうです。

 問題はスマホの差し入れが増えていることです。スマホを使って「塀の中」のマフィア幹部が、「シャバ」にいる子分に対して犯罪行為の指揮を取ることが可能となったり、さらには受刑囚同士がスマホで連絡を取り合った上で看守のスキを突いて「一斉蜂起」し、刑務所内を無秩序状態にする事例も起きています。

 そんな中、現時点でのFAAの規制は、あくまでドローンの安全性、つまりドローン同士の衝突防止、墜落防止、あるいは既存の飛行機との接触事故防止などが中心となっています。FAAというのは、アメリカの「空」を管理する機関ですから仕方がない面もあるわけですが、今後はさらに社会的な観点からの規制論議が「陸」の方でも必要になってくると思われます。

 このドローン問題、「全く新しい輸送や監視の手段」としてメリットが大きい一方で、悪用された場合のデメリットも計り知れないものがあります。日本の場合は、密集した都市部と山岳地帯、あるいは大小無数の島嶼で国土が構成されていることから、アメリカとは地理的条件の違いもあります。いずれにしても、ドローン時代の入り口を迎えて「活用と規制」両面からの論議が必要だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story