コラム

震災当日の晩、JR東日本は何を最優先にしたか

2015年03月12日(木)12時25分

 この新幹線の耐震システムについては、あらためて色々な形で評価や検証がされていくと思いますが、もう1つ、JRに関わる震災時のエピソードをお話しておきたいと思います。

 それは、2011年3月11日の「その晩」にJRが何を最優先事項にしていたかということです。

 東北新幹線、東北本線、常磐線という大動脈が大きく損壊し、当面の復旧のメドが立たない中、社内では「日本海回りの貨物列車は通せるか?」という一点に絞って検討がされたというのです。

 被災直後から、歴史的な「東北大停電」が発生し、直後からガソリン不足の問題が持ち上がる中、この年の東北はまだ雪の舞う寒波に見舞われていました。そこで燃料輸送の問題は人命に関わるという判断です。

 通信網も寸断されるなか、各方面に確認を取り、上越線、羽越本線を使って磐越西線から郡山方面、米坂線山形経由で仙台地方へという「日本海回り」で、首都圏から被災地に燃料輸送が「できる」とわかった時には、社内には「ほんの少し明かりが見えた」感じがあったそうです。そして、その晩は社の最優先事項として、この輸送作戦の実行に取り組んだのだそうです。

 もちろん、実際の貨物列車の運行はJR貨物ですし、実際に「燃料輸送の重要性」ということでは、政府や被災県とのコミュニケーションも機能したのだと思います。その意味では、JR東日本の功績だけではないのですが、少なくとも、未曾有の危機に際して:

――「何をしなくてはならないのか?」
――「何ができるのか?」

 という問いについて、答えを持って行動ができたということは事実のようです。

 もちろんこのエピソードにしても、今後のために更なる検証は必要と思います。ですが、仮に「被災当日の行動」として少なくとも「最善手」が打てたというのが事実であるのならば、そのことからは様々な教訓が導けるように思います。

 例えば、民営化について言えば、イデオロギー的な是非論ではなく、平常時は経済合理性を原則としながら、非常時には公益を優先する組織は「どのように設計すれば可能になるのか?」というような切り口で見て行くことはできると思います。

 後は、現場と意思決定機能の間に、適切なコミュニケーションと、適切な統制が取れるようなカルチャーをどう作って行くかということもあるでしょう。いずれにしても、様々な意味で参考になるエピソードだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有

ビジネス

FOMCが焦点、0.25%利下げ見込みも反対票に注

ワールド

ゼレンスキー氏、米特使らと電話会談 「誠実に協力し

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story