コラム

政府はどうして「秘密」を持ちたがるのか?

2013年11月21日(木)10時40分

 現在の諸問題にも似たような構図があります。2011年の東京電力福島第一原発の事故に際して、文科省は放射性物質拡散のシミュレーション・システム「SPEEDI」の試算結果を秘密にしましたが、それは何も飯舘村などの住民に高線量を浴びせて平気だったからではありません。試算結果を公表することによる混乱を処理して尚、公表によるメリットを生み出して世論に叩かれないというシナリオをどうしても描けない中で、公表するだけの制度的なインフラもない中、公表できなかったのです。

 自分たちが無能であり、制度の整備を怠っていたから、つまり政府が政府として必要な制度インフラと、情報収集の仕組みと、判断し実行するだけの人材力に欠けていたから、つまり政府というのは「無能」であるから「秘密を作りたがる」のです。

 オバマ政権もそうです。オバマ政権は、相当に秘密主義の害毒に汚染されてきていますが、例えば現在大きなスキャンダルになっている「医療保険改革による新医療保険の入会システム」のトラブルに関しても当初はなんだかんだ言って隠していました。オープンに問題を公表して、なおかつ制度への支持をキープするだけの、そして問題解決にメドをつけるだけの能力に欠けていたから隠したのです。

 昨今大変な非難を浴びているパキスタン、アフガニスタン、イエメンなどでの「ドローン(無人機)」作戦も同様です。本来であれば、テロ容疑者が外国に潜伏していたのであれば、当事国との関係で合同捜査を行って、容疑者を拘束し国際法によって、どちらかの当事国の公正な刑事裁判システムで裁くべきです。ですが、外交能力が不足しているために、もっと言えばソフトパワーを含めたアメリカの方針に国際的な説得力が無いために、そうした正攻法が取れないわけです。

 そこで全くの超法規的判断として、無人機を外国の領空に侵入させて、容疑者と思われる「ヒトの体温の集合体」を感知すると遠隔操作で爆撃して人間を殺害するわけです。勿論、誤爆も巻き添えも知ったことではなく、多くの場合は攻撃の事実も一切公表しません。相手国の政府から、そして国際世論からの批判には耐え得ないことを知っているから伏せるのです。

 そのような行動が中長期的には米国に反発する世論を拡大して、かえって危険を増大することも分かってはいるのでしょうが、CIAやNSAの官僚システムから「危険人物に関する諜報」が上がってくると、放置して大規模なテロが再発すると国内で批判されるからという「恐怖心から」やってしまうわけです。無能に加えて、そのような脆弱性も伴っていると言えるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

金価格が一時2%超下落、ドル高・米利下げ期待後退で

ビジネス

アングル:日本株「底打ち」サイン、一部データが示唆

ワールド

韓国国会特別委、対米3500億ドル投資法案承認 本

ビジネス

街角景気、2月は4カ月ぶり改善 前月比1.3ポイン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 2
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 3
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリアルな街で考える60代後半の生き方
  • 4
    「溶けた金属のよう...」 ヨセミテ国立公園で「激レ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 7
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    最後のプリンスが「復活」する日
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story