コラム

ニューヨーク州「同性婚合法化」は全国に波及するか?

2011年06月27日(月)11時35分

 6月24日(金)、既に州議会を通過していた「同性婚合法化法案」に、ニューヨーク州のクオモ知事(有名な元ニューヨーク州知事の息子、民主党)が署名し、法案は発効しました。例えば、運動の先頭に立っていた、「SEX AND THE CITY」で有名な女優のシンシア・ニクソンは「勝利」に導いた英雄になっています。全国を二分していたこの問題ですが、何と言ってもニューヨーク州という大きな州が認めたことは大きく、これからは益々全国的な政治問題になってゆくと思います。

 では、どうしてこの問題は世論を二分する「大問題」になっているのでしょうか? それはこの「同性婚」という問題が、ある意味では一人ひとりの世界観を代表してしまっているからです。例えば、日本では「日の丸・君が代」は「過去の倫理的敗北の象徴」という人と「現在のコミュニティ統合の象徴」という2つの考え方に分かれて「相容れない対立」になっていますが、それと同じように「世界観」の対立になっています。

 では、世界観がどうして激しい対立になるのかというと、世界観というのは全世界を対象として適用される「モノの見方」ですから、勝ち負けの話になると、相手を屈服させることが目的になってしまうからです。考えの異なる人間が残っていては「世界観」を全世界に適用できないという非寛容性は、世界観なるもののロジックに内包された話だからです。

 この「同性婚」の問題について言えば、本人たちに取っては切実である一方で実務的な問題なのです。合法化されないのであれば、合法な範囲でカップルとしての家計や財産管理、養子縁組など家族の拡大をやるだけですが、認められれば男女間の婚姻と同じような手続きで家族を拡大できるわけです。そうなれば、自分たちの人格が社会から十全に承認されたと感じるでしょうが、ダメならダメで世界が終わるわけでもない、それ以上でも、以下でもないと思います。

 ですが、同性婚を考えているカップル以外の「周辺」の人にとってはどういうわけか大問題なのです。例えば、反対派の中には相当に強硬な人々もいます。この人達に取っては、実務上の問題を越えた世界観の問題になるからです。では、どうしてアメリカのいわゆる「宗教保守派」はこの問題で強硬なのでしょう?

 そこにあるのは、国家と宗教のイメージです。ヨーローッパの貧困から逃れて移民してきた祖先が、北アメリカの荒涼とした自然と闘いながら開拓を続けてきた、その全体は苦しい経験だという認識です。そうであるが「神よって認められた人間」として信仰を拠り所として成功をつかんだ、そうした歴史観を持っている人々は、自分たちの生存そのものを保障するものとしての宗教というものを直感的に持ってしまっています。

 同性愛者の存在は、そうした彼等には、神が自然と対置するために創造した「人間」の定義への挑戦になってしまうわけです。自分は異性愛だが、他に同性愛の人がいて彼等なりに婚姻を名乗っているというのは、常識的には「他人の勝手」ですが、宗教保守派に取っては「世界観の破壊」であり、それは自分のアイデンティティーへの挑戦と「勝手に」受け止める論理が強烈なものとしてあるわけです。

 一方で賛成側のイデオロギーの背景には、「自分の祖先は信教の自由を求めて新大陸に渡り、共和制と民主主義の実験国家を作った」という誇りがあります。いわば民主主義の実験を永久に続けるのがアメリカであり、同性愛婚というのも、その崇高な実験の1つとして、それを認めることが「アメリカをアメリカたらしめている」と信じて疑わないわけです。

 では、今回のニューヨーク州の決定は、宗教保守派を激怒させてしまい、例えば2012年の大統領選では、そうした価値観論争が選挙戦の争点になるのでしょうか?

 必ずしもそうとは言えないようです。

 例えば、オバマ大統領ですが、この問題が下手をすると国論を二分する危険性を持っていることを彼は熟知しています。ですから、例えば選挙戦の争点にするような流れは、あらゆる手を使って阻止してくるでしょう。

 一方で共和党の方でも、余りこの問題に突っ込んでいくと、常識的な中間層から「宗教保守派にコントロールされた一種の原理主義でついていけない」という反発が出るのは分かっているようです。例えば、今月(6月)中旬に行われた、大統領候補のディベートでも、

「そもそも結婚なんていうのを政府のカネを使った登録制度にしているのが間違い。いっそのこと、教会に行って宣誓して登録するように民間へ権限委譲すべきですよ」(政府の極小化を主張するリバタリアンの象徴、ロン・ポール下院議員)

「(同性愛婚に関しては各州の州法の判断を優先するか、それとも連邦の憲法でハッキリ禁止するかと問われて)それでも私は州の自治を至高のものと信じます」(ティーパーティー系のミシェル・バックマン下院議員)

 という発言が出ています。それぞれに興味深いものですが、どちらも全国の問題として、連邦の憲法で同性愛婚の禁止という縛りをかけることには反対しています。ということは、この問題は連邦マターではないというわけで、従って連邦の行政府の長である大統領を選ぶ選挙の争点にはしないと言っているわけです。

 もしかすると、この問題は国論を二分するというよりも、賛成派と反対派が正面衝突を避けつつ、州によって異なる制度をお互いに受け入れていく方向になるのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

対ロ和平、ダボス会議で米との協議継続へ ウクライナ

ワールド

米はグリーンランド管理必要、欧州の「弱さ」が理由=

ワールド

イラン大統領、米軍攻撃には「手厳しく反撃」と警告

ワールド

EU、緊急首脳会議開催へ グリーンランド巡る米関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story