コラム

選挙に怯える議会と、余裕を見せるオバマ

2010年04月28日(水)12時35分

 ここへ来て、アメリカの政局は落ち着かない気分になってきました。そこには、中間選挙まで残り半年を切ったという事情が大きく作用しているようです。例えば、27日の火曜日には、議会上院で「不動産ローンの証券化」に関するバブル崩壊前後の問題で、ゴールドマン・サックス投資銀行の当該部門の幹部が証人喚問されていました。先週に同社がSEC(米国証券監視委員会)から告訴されたのを受けての喚問でしたが、内容は「三流の政治ショー」という感じで大したことはありませんでした。

 先週以来、同社の株はこの問題を受けて下がっていたのですが、喚問が始まって委員長の冒頭演説が始まると程なくして市場では、同社の株はジリジリと上がっていったのですから、上院としてはナメられた話です。とにかく「皆が損をしているバブル崩壊局面で空売りをして儲けたのは許さんぞ」というだけの内容に近く、議員たちの追求はかなりお粗末でした。一方で、緊張した面持ちの金融エリートたちは「私たちはそれぞれの局面で、リスク低減というお客様のニーズに応えてテクニカルに最善を尽くしてきました」と言う姿勢で一貫していました。

 そんな金融マン達に対して、議員の追及のスタイルは「どうなんですか? 上がれば相手が儲かる商品に、下がれば自分たちが儲かるという部分を混ぜて売るのは、どんな気分なんですか? 気持ちイイでしょうねえ。まあ、アンタには答える気もないだろうけどね・・・」などというベランメエ調だったのです。ゴールドマンの面々は「ご質問の主旨が、私には本当に分からないのですが・・・」と呆れるというより、本当に「訳が分からない」という表情でした。

 結果的に喚問の内容は、SECが告発に踏み切った「利害相反」疑惑などといった「複雑な」話ではなくなって行きました。ゴールドマンという「勝ち組」に対して「そもそも不動産バブルを拡大したのはアンタ達が悪い」というような感情論が主で、各議員は選挙対策のパフォーマンスとして「追及演説」を行うのですが、その内容自体は言葉の上では一方的な弾劾であっても、法律論としてはほとんど意味のないロジック、そんな妙なやり取りが繰り返されていました。同社の株価は、公聴会の開催されている間ずっと前日比プラスで推移し、正にこの日のセッションの「中身の無さ」を象徴していたと思います。

 選挙対策といえば、アリゾナ州で発効した「不法移民処罰法」も中間選挙前の政治力学から出てきたように思います。この法律ですが、警察当局が「不法移民という疑い」を感じた場合は、即座に身分証の提示を求めることができ、不法移民と判明した場合は禁固刑を科すことができるというかなり「大胆な」制度です。要するに人種差別ではないか、ということで反対の声が高まっているのですが、どうしてこの法案が通ってしまったのかというと、いわゆる「草の根保守」の「ティーパーティー運動」の影響が強いようです。

 アリゾナでは、上院議席をずっと守ってきたジョン・マケイン候補が、この「ティーパーティー」の推薦するラジオ・キャスターのJ・D・ヘイワース候補に今年の「共和党の上院予備選」で押され気味なのです。マケイン議員という人は、元来がこうした移民問題に関しては、中道やや左のリベラルなポジションを取ってきた人なのですが、そんなわけで議席が危なくなってくる中、長年の信念を捨てて「移民対策の厳格化」にシフトしてしまっています。かなり極端なこの法律が通ってしまった背景には、このマケイン議員の賛成というのも大きかったようです。

 一方のオバマ大統領は、ここのところ政治的には余裕を見せています。医療保険改革法案で勝利した勢いで、核セキュリティのサミットも成功させているからです。その次の政治日程に載せている(そして、今回の「ゴールドマン摘発」も関係がある)金融規制法案については、再び議会でもめていますが、大統領としては「自分はやることはやっている」とポーカーフェイスを貫いています。中間選挙というのは、大統領の支持を問う「中間テスト」のようなもので、歴代大統領は、特に就任後初の中間選挙の結果については「大変に気にする」のが当たり前でした。ですが、考えてみれば、全員改選の下院議員、3分の1が改選の上院議員の立場と比較すると、クビのかかっていない大統領はこの選挙は傍観が可能なのです。

 政治情勢も「大統領の傍観」を許す雰囲気です。中間選挙を気にする余り、民主党は左のポピュリズム、共和党は右のポピュリズムに突っ走っています。移民問題や金融改革問題で、議会が思い切り左右に振れて合意ができなくなっているのは、そのためです。ゴールドマンの金融マンに「お尋ねの意味が分かりません」と言われるような一方的な非難を議員たちがしなくてはならないのも、同じ理屈です。議会が左右の極端に走れば走るほど、中道実務姿勢を取っている大統領のイメージはアップする、結果としては、そんな力学が作用しています。共和党が大統領候補を持っていないことも大きな要素で、現在のところ、露骨に世論への擦り寄りが目立つ議会はイメージを下げ、大統領一人が超然として見える、そんな状況が出来上がっているのです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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