コラム

日本企業は北米市場で負けても良いのか?

2009年10月09日(金)12時58分

 アメリカの景気は不透明な状況が続いています。目下のところは、今年の11月から12月の年末商戦がどうなるかが勝負で、基本的には昨年比マイナス1%という悲観論や、微増ではという意見などが飛び交っています。その年末商戦の中でもっとも大きな位置を占めるのが、デパートと家電でしょう。デパートの方は、昨年の延長で「デフレ商品とまでは行かないが、値打ち感のあるもの」が強そうだということで「コールズ」や「JCペニー」といった小売、「アメリカンイーグル」や「エアロポスタル」といったアパレルの株が上昇しています。

 家電の方といえば、昨年は年末商戦を待たずしてチェーン店の「サーキットシティ」が破綻したり散々でした。この会社の場合は、高級薄型TVの在庫コストに押しつぶされたわけで、その流れを受けて今年も価格破壊が続くのかというと、必ずしもそうでもないようなのです。薄型TVが商戦の柱という構造は、以前と変わっていません。ここへ来て、6月にアナログ地上波が停波されただけでなく、ケーブルTV各社も「アナログ信号停波」という措置に出ており、TVの買い替え需要はあるからです。

 そんな中、昨年のような絶望的な価格破壊は繰り返したくないということで、北米市場では「LED」TVなる新商品が投入されています。私も最初は、オーガニックやSEDなどの新技術が出てきたのではと驚いたのですが、何のことはありません。バックライトにLEDを使い環境センサなどを使ってコントラストを向上させたLCDテレビ、それ以上でも以下でもないのです。日本の各メーカーもこの秋から市場投入している普通の商品です。

 ところが、韓国勢のLGとサムソンは量販店に特別なコーナーを設置して、あたかも画期的な技術のように「LED」テレビを陳列しているのです。価格も販売力のある全国チェーン「ベストバイ」では40インチで1500ドル台と、昨年の商戦でのフルHDのLCDに比較して50%アップという強気な設定です。では、これに対して日本勢はというと、シャープのLEDモデルが出始めていますが、価格は同じ40インチで1100ドルです。ソニーは1500ドル台の高級品も出していますが、リフレッシュレート(応答速度)が速いことを訴求しているだけで廉価品との差別化は十分にできていません。むしろ一世代前の800ドルの商品を販売の柱にする構えが見えます。

 そんな中、サムソンとLGの「LED」モデルはブランドとして富裕層に訴求しているように見えます。現時点では結果は分かりませんが、大手チェーンでの店頭訴求、販売力のあるネット通販点でのキャンペーンなどを見ると、相当の存在感になっているのです。これに対して、日本勢は「廉価品メーカー」的なイメージになりつつあります。考えてみれば、シャープの場合は昨年はMLBのポストシーズンゲームで膨大な宣伝費を投下していますし、そもそも「LED」が訴求している黒のコントラストというポイントは、パイオニアが「KURO」ブランドで会社を傾けるまでしながら普及させた考え方です。これでは、日本勢が膨大な資金を作って耕した市場を、韓国勢が刈り取っているようなものです。

 似たような話はゴロゴロ転がっています。携帯端末に関しては、日本がハードもソフトも「異様に進みすぎたガラパゴス」状態になったので国際標準に乗り遅れたということがよく言われます。ですが、日本市場が勝手に進化したからというのは、言い訳に過ぎません。要は北米市場や欧州市場で「負けた」のです。負けたのでサッサと放棄しただけです。その背景には、携帯というコミュニケーション文化に関わる部分の市場心理は、特に言語と国境を越え、世代を超えた世界というのは「日本のご本社の偉い人」にはチンプンカンプンだったということはあるでしょう。それも言い訳です。要は仕事をサボったのです。優秀な人材を配置できなかったのです。

 今週は、トヨタがアメリカでは散々叩かれました。「全天候型の重量級ゴム製フロアマット」が事故の原因になったというのですが、これも私の見るところでは「北米販社とディーラー」が標準のフロアマットに加えて、「怪しい全天候型」を勝手に売っていたのが原因だと思います。その際に2重にマットを敷いたり、マットを水洗いした際にしっかりフックに留め直す指示をしていなかったのが事故を誘発しているように思えます。そうした市場で起きていた「いい加減なアメ車感覚での販売や使用」を本社がチェックしきれなかった、ここにも北米市場における日本勢の「翳り」を感じるのです。

 アメリカの販社とディーラーがいい加減なことをやっておいて、そのくせ「技術のトヨタの信頼が揺らぎました」などという報道を許していては、それこそ当面は日本経済の生命線である北米における自動車のシェアも傾いていく可能性があります。そういえば、今月はGMの「斜陽のはずの」ブランド「ビュイック」から中型セダン『ラクロス』の新型が発表になりましたが、中国の「なんちゃってロールス」も真っ青の「日本車デザイン」なのです。もっと言えばコンセプトとしては「レクサス」のコピーに他なりません。新型LSのライン、先代ESのテール、新型ESのグリル回り、GSのマッシブなイメージなどを「パクった」のは明白です。具体的にどの車種のマネとは言えず、法的には戦うのは難しいかもしれませんが、市場のシェア争いでは絶対に譲ってはならないと思います。

 問題は簡単です。アメリカに来て、アメリカの市場を見ること、それだけです。

 出張をケチってはダメです。出張しても日本人社員の報告を日本語で聞くだけではなく、現場や市場に足を運ぶべきです。駐在員もケチケチ呼び返すのではなく、必要に応じて人数を維持すべきです。そしてその駐在員は、ヒマさえあれば日本料理屋やカラオケで「日本恋し」などとやっているタイプではなく、アメリカの草の根に分け入って好奇心と警戒心とプライドを持って、マーケットの底に流れる心理を見抜く人材を送り込み、不断の情報収集のできるライフスタイルを実践させるべきです。そして、自己主張や「逃げの」コンプライアンスに走るばかりでない、ギブアンドテイクの中でしっかり貢献してくれる現地人材との有効なチームワークを組ませるべきです。

 貿易摩擦や雇用の問題で何か言われるのは面倒かもしれませんが、何も言われなくなった時には、市場はほとんど失っていると見るべきでしょう。日米が「対等」などといっても、それは全て経済的な存在感を維持してのことなのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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