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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
GM破産を待つ週末
GM(ゼネラル・モーターズ)への破産法11条適用がほぼ確定し、後は6月1日月曜日の朝8時に予定されている申請の手続きと、これに続く大統領の演説を待つだけということになりました。このエピソードは、アメリカを代表する企業の破綻であり、一時代を画したアメリカの自動車産業の敗北であり、また賃金労働者を組織して政治的な影響力を誇った産業別組合の時代の終焉でもあります。ですが、アメリカには悲壮感はありません。ただ静かに5月が終わるというだけであり、社会としては落ち着いたムードの週末になりました。
週末のニュースのトップは、政治経済ではなく芸能ネタが主でした。アメリカでは、15年にわたって深夜のお笑いトークショー『トゥナイト』の司会を務めたジェイ・レノが、この29日の金曜日の放送を最後に引退したというニュースが大きく取り上げられました。大統領選の際には、この番組に候補が出演して、レノの「どぎつい突っ込み」への対応ぶりを見せるのは恒例になっていますし、最近では「就任100日」を前にしたオバマ大統領は現職の大統領としてこの番組を通じて世論にアプローチするなど、政治的な影響力も持っていたレノの引退は、一時代の終わりを告げるものでした。
ある意味では「突っ込みどころ」ばかりのクリントン、ブッシュという2代の大統領の時代が過ぎ去り、何とも「スキのない」オバマの時代になったということが、こうしたレノの「どぎつい」風刺のスタイルも過去のものにしたのかもしれません。もう一つは、英国のタレント発掘ショー番組で有名になった「遅咲きの歌姫」スーザン・ボイルさんが番組の決勝戦に進出するというニュースで、結果的に2位に終わったことも含めてアメリカの各局では、何度も何度も取り上げられていました。
政争となりかけていた最高裁判事の選任問題も、ここへ来て沈静化してきています。先週オバマ大統領が指名したソトマイヨール候補については、「白人男性より、ヒスパニック女性の自分の方が判断力がある」という過去の発言を材料に、一部の共和党議員から「最高裁判事には不適当」という声が上がっていました。中絶や女性の権利などの問題に関しても「リベラル派判事」という批判が出ています。これに対しては、リベラル系のメディアが一斉に「ソトマイヨール候補を潰したら、2年後の中間選挙で共和党はヒスパニック票を失う」という観測報道を展開すると、共和党議員団は一気に静かになりました。
そんな中、週末にはカンザス州で、妊娠中絶医が暗殺されるという事件が飛び込んできました。アメリカの暗部を垣間見させるイヤな事件ではありましたが、これも、「この問題を政争にすべきでない」と言い続けている大統領の正しさを証明させる効果があったように思われます。更に言えば、この一件で益々共和党右派はソトマイヨール判事の信任を妨害することは難しくなったとも言えるでしょう。
この暗殺事件のイヤな後味は残っているのですが、それ以外の点ではこの週末、本当にアメリカは落ち着いていました。GM破綻を静かに待ちながら、この半年間の激動を振り返ると、オバマ大統領がとりあえず公約したことはほとんど進めてきたのは認めざるを得ないと思います。株価や銀行の財務内容の問題など、まだまだ油断できない状況は続きます。ですが、とりあえず大きな混乱なく、クライスラーとGMを「出口」へ持っていったということに関しては、経済の視点からも、また政治的な実績としても評価できるように思うのです。
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