コラム

欧米のウクライナ援助の裏にある不都合な真実(パックン)

2022年03月31日(木)17時30分

もちろん、人間は身近に脅威・危険を感じると反応が変わる。近所に火事が起きたら、自分もバケツリレーにも参加するだろう。だが、お金持ちの街が燃えるときにだけ消防車と救急車が出動するのはおかしい。

被害者の顔が似ているからではなく、主権国家の国境が破られ、街が破壊され、民間人が大勢殺されているからこそ動くべきだ。国際法や規範、普遍的な道徳や価値観に対する侵害が起きているからこそ力強く立ち上がらないといけないのだ。全力でその「侵害」を止めようとする反応が自分たちに似ている人々のときだけに限定されるととても危険だ。

日本も他山の石としたい

日本の近所でも将来、似たような侵害が起こり得る。(国名・地域名を言わなくても、このコラムの読者ならその場所が100%わかるはず。)その被害国は欧米と文明が違う。主な欧米人と当事者の顔も違う。乗っている車も違う! それでも、欧米の国々は国際法と人道を守るためにどれほど頑張ってくれるのか? 自国民の生活を犠牲にしてまで経済制裁で団結を見せるのか? 大勢の難民を受け入れてくれるのか? 戦後の復興に貢献するのか? ウクライナ危機に対する対応には感心するが、それがバイアスに基づいている可能性があるから、こんな疑問が根強く残る。

全世界のどこで侵害が起きても今と同じ熱量で対応することを決意しようじゃないか。

キング牧師の名言を意訳すると「1カ所で起きた不正義でも、全世界にとっての不正義だ」ということ。これは公民権運動における発言だったが、国際関係においても、この教訓を今のうちに再確認しておきたい。

追伸:日本も、遠い国でも身近に感じて全力の対応を見せないとね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとヒズボラが交戦、ガラント国防相は夏の攻

ビジネス

米の対中投資規制、年内に策定完了へ=商務長官

ビジネス

ネット証券ロビンフッド、第1四半期は黒字転換 仮想

ビジネス

独プーマ、第1四半期は売上高が予想と一致 年内の受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story