最新記事

ウクライナ

将官が次々と死亡し暴徒と化すロシア軍

Winging It’: Russia Is Getting Its Generals Killed on the Front Lines

2022年3月23日(水)16時56分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)

指揮官の死は前線に何をもたらすのか(写真は、ドネツクの親ロシア派兵士) Alexander Ermochenko-REUTERS

<ベトナム戦争以降、米軍で命を落とした将官は1人だけだが、ウクライナ侵攻以降のロシア軍では既に5人ないし6人にのぼる。いったい何が起きているのか>

ウクライナ侵攻から1カ月弱で、ロシア軍はすでに前線で戦う将官を少なくとも5人失ったと、西側当局者が3月21日に発表した。通信障害と何十万人もの徴集兵を含むロシア軍の規律の欠如によって、前線に命令を伝えることが困難になっているためだ。

死亡したロシア軍将官は、そのほとんどが准将や少将など星1つあるいは2つの司令官で、少なくとも中将が1人含まれている。ロシア軍将官の死傷率は第2次世界大戦以来最も高いとみられている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の最高顧問を務めるミハイロ・ポドリアクは3月20日、ロシア軍将官6人が死亡したと述べ、侵略したロシア軍はウクライナでの戦いについて「完全に準備不足」だと主張した。

ロシア軍指揮官の死者数に関する欧米当局者の見積もりは、もう少し控えめだ。

西側情報機関の情報分析に詳しいあるヨーロッパの外交官は21日、フォーリン・ポリシー誌に、少なくとも5人のロシア軍将官が死亡していると語った。その主な原因は、電子通信機器の故障で指揮官の居場所を特定され、攻撃の標的にされたこと、さらに約20万人という大部隊(その多くは若い徴集兵)を命令に従わせるために、将官が前線に出向かざるをえなくなっていたことだという。

前線部隊が動かない

「彼らは最前線にいる部隊に命令を理解させるのに苦労している」と、この外交官は、最近の戦場での情報活動について、匿名を条件に語った。「指揮官は命令を実行させるために現地に赴かざるをえないため、通常では考えられないほど大きな危険にさらされている」。

この外交官によると、ロシア軍将官の死者数は、ウクライナに展開する部隊の司令官の5分の1(西側情報当局の推定では20人)に上り、軍の活動能力も低下しさらに行き詰っているという。「すべては軍の準備不足が原因だ」と外交官は言う。「何かをするために部隊に命じても、それが実現しない」

この戦争では、艦船同士の戦闘はほとんどないのに、海軍の上級将校が犠牲になっている。先日も、ロシア黒海艦隊のアンドレイ・パリー副司令官(少将昇進を控えていた)が、ウクライナ東部の包囲された都市マリウポリ郊外でウクライナ軍に射殺された。

21日未明、政府寄りのタブロイド紙コムソモリスカヤ・プラウダは、ウクライナでの約1カ月の戦闘でロシア軍兵士9861人が死亡、1万6153人が負傷したと報じた。ロシア国防省の公式統計のリークまたはハッキングによる数字と見られている。この記事は後に削除された。ロシア国防省の公式発表では、開戦から1週間足らずの3月2日時点で、ウクライナにおけるロシア軍の死者は498人となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ経済、26年は国内主導の回復に転換へ=IMK

ワールド

豪首相、ヘイトスピーチ対策強化を約束 ボンダイビー

ビジネス

仮想通貨交換コインベース、イベント予測や株式取引に

ビジネス

エリオット、加ルルレモン株10億ドル超取得 CEO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中