コラム

安倍政権は要注意、米朝会談で日本はアメリカに裏切られる!?

2018年03月22日(木)15時30分

トランプが「アメリカ・ファースト」に考えるのは明らか Mike Theiler-REUTERS

<米朝首脳会談で日本が「蚊帳の外」に置かれないよう、核・ミサイルや拉致問題などの優先順位を考え、何ができるか国民の間でも議論しよう>

5月末までに予定されている米朝首脳会談をめぐって、日本国内では期待と共に不安も高まっている。安倍政権が「対話より圧力!」と強硬路線を取り続けてきた一方で、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はピョンチャン(平昌)五輪をきっかけに北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と急接近し「微笑み合っている」。さらにドナルド・トランプ米大統領は唐突に方向転換し、会談にゴーサインを出した。日本にとっては「蚊帳の外」感が拭えない。

6月に統一地方選を控える韓国大統領や、11月に中間選挙をにらんでいる米大統領は焦りを見せているのかもしれない。特にトランプは政権内の混乱、ロシア疑惑、AV女優への口止め料支払いなどの話題から国民の目をそらしたがっている可能性も高い。北朝鮮との交渉で早めに成果を出したいがために、米国内で自慢できるような条件を優先し、日本が重視するイシューを犠牲にする可能性は十分考えられる。

心配する人の気持ちはよく分かる。
 
具体的に懸念される「裏切り方」としては、主に2つのシナリオが考えられる。1つ目は「拉致問題は未解決のまま米朝合意に至る」ということ。2つ目は「ICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発凍結で合意をするが、日本が射程範囲内に入る短・中距離弾道ミサイルは北朝鮮が保有したままになる」ということ。

残念ながら、どちらも合理的な予測だと思う。もちろん理想は拉致問題解決も、短・中距離弾道ミサイル放棄も、さらには完全非核化も全て含めた総合的な合意に至ること。その可能性は少なからずある。でも、その夢を見続けながらも、叶わなかった場合に備えて議論を進めないといけない。そして「裏切り」があったとしても、悪夢にならないようにしないと。

正直言って、上記の2つの問題において、アメリカに「裏切られる」可能性は大きいと思う。その理由を説明しよう。

とにかく一刻も早く拉致問題を解決し、拉致被害者とその家族を日本に帰してほしい。日本国民はもちろんだが、僕も強くそう思っている。しかしアメリカにとっては、直接的な脅威になるミサイル・核問題の優先順位の方が断然高い。トランプが昨年9月の国連演説で横田めぐみさんに触れたとはいえ、米朝交渉が始まったら「アメリカ・ファースト大統領」が拉致問題に重点を置くとは思えない。

では、韓国はどうか? 韓国は日本と同じ拉致被害国である。北朝鮮に軍艦を撃沈されたり、住宅街も含めて砲撃を受けたり、民間の飛行機が爆破されたりしている。そもそも北朝鮮に侵略戦争もされているのだ。同じ被害国として日本に深く共感できるはず。しかし、今まで大量の涙を飲んで融和策に挑んできた韓国国民は、日本に同じような我慢を求める可能性も大きい。

米・韓が脅威解消や緊張緩和を優先する中、日本が拉致問題にこだわり続けると3国間で歩調がぶれる。もちろん米・韓も総合的な合意を目指すはずだが、交渉が頓挫しそうになったら拉致問題は後回しにされる確率が高い。これを「裏切り」と見るなら、いつ裏切られてもおかしくない。
 
短・中距離ミサイルに関する心配も同様だ。北朝鮮のICBMはほぼ完成している。大気圏再突入さえ可能になればできあがり。そうなると、アメリカにとっての脅威レベルは一気に上がる。だから、その前にミサイル開発を凍結させることが脅威解消の最も手っ取り早い手段。北朝鮮にとっても、比較的応じやすいものと思われる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスから人質遺体1体の返還受ける ガ

ワールド

米財務長官、AI半導体「ブラックウェル」対中販売に

ビジネス

米ヤム・ブランズ、ピザハットの売却検討 競争激化で

ワールド

EU、中国と希土類供給巡り協議 一般輸出許可の可能
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story