コラム

老後資金二千万円問題 100年あんしん年金の最大の問題点

2019年06月17日(月)13時24分

「100年安心プラン」は2004年に小泉政権が行った年金改革(写真は2004年の小泉純一郎首相) Issei Kato IK-REUTERS

<年金「100年安心プラン」の最大の罪は、「これで年金問題は解決した」として、有識者が2004年以降、年金制度改革を怠ってきたことだ>

「100年安心」というキャッチフレーズは2004年の改革を指す。そうか、そんなに昔のことになってしまったか。

1990年から政府の年金は崩壊すると言われてきたし、私もそう主張し続けてきた。その私を、2004年に年金分野の権威の教授は「もう年金制度の問題は完全に解決したんだよ」と恫喝して、驚愕させた。

彼曰く、マクロスライドが導入されたからすべて問題は解決した。後は何の問題もない。

そういうことだった。

私はまったく合点がいかなかった。

もちろん、これは彼だけの認識ではなく、当時の制度改革に尽力した専門家たちの共通認識だったのだろう。実際、この改革がなければ、現在の年金制度はもっと悲惨なものになっていたに違いない。

<関連記事>老後資金二千万円問題 「悪いのは誰か」
<関連記事>老後資金二千万円問題 政策的な論点はどこか

年金は2割カットせよ

一方、いまだに年金制度で議論されているのは、支給開始年齢をどこまで遅らせるか、という議論であり、遅らせる理由は、足元で財源が足りないから、先送りをし続け、人口動態が安定するまで何とかごまかしごまかし逃げ切る、ということにしか見えない(なぜなら、65歳の支給開始を70歳に遅らせる、という「改革」は、70に遅らせるインセンティブを持たせるために、65から70に遅らせたほうが合計受給額が多くなると受給者に思わせる必要があり、実際支給額の上乗せがある。したがって、支給開始年齢を遅らせることにより、年金財源はさらに逼迫するはずだからだ)。

そして、私自身の解決策は、年金の支給額を実質2割カットするしかない、というものである。ここでは私の改革案を示すことが目的ではないので、詳しく議論はしないが、2割カットは、高所得者の高額受給者に負担のほとんどを負わせて、彼らの年金を半額カットするというものでも良いし、広く全員の受給額を2割カットしても良いし、75歳まで支給開始を遅らせるが、支給額は増やさず、支給期間を10年カットしてもよい。そのカットの仕方は政治的に解決するだけのことで、要は2割支給総額を減らせばよい、というものだ。細かくいろんな工夫はもちろんするし、実は抜本的に、賦課方式をやめて積み立て方式に移行するというのが私の改革案の本質だ。

さて、要は、年金問題はまったく解決していない、というのがポイントだ。2004年の100年安心が崩れた理由は、積立金の運用益がリーマンショックで失われたからでも、経済成長率が低すぎるからでも、あるいはインフレ率が低すぎて、名目で水増ししてごまかすことができなかったからでもないはずだ。前提が極端に甘かった、というのが一般的な議論だが、私の意見はそのような経済環境の変動によって崩れる制度は安定した制度ではないので、欠陥制度だ、ということだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story