コラム

老後資金二千万円問題 「悪いのは誰か」

2019年06月17日(月)10時15分

金融庁は悪くない。では誰が? REGIONAL REUTERS/Toru Hanai

<「誰でも知っていた当たり前の問題」が大事になったのは、国民とメディアにとって重要な問題だったから。二千万円必要という真実を知りながら目を背けてきた自称・有識者こそ目を覚ますべきだ>

もちろん、金融庁も厚生労働省もまったく悪くない。真実をあえて述べたということですらなく、今までどおりの日常業務の延長に近いものだっただろう。だから、騒ぎになって唖然としていたはずだ。

麻生大臣も、事後的には答申を受け取らないという行動をとらされているが、党の議員たちが騒ぐまで何とも思っていなかっただろう。

となると明らかに悪いのは、選挙前で過敏になっている自民党の議員たちが騒いでいるのが意味不明で、彼らが諸悪の根源と考えるのが普通だろう。

しかし、より問題なのは、野党の議員たちだ。

事実がどうであれ、日本のためはどうであれ、選挙の争点になる可能性のあるものに死に物狂いでしがみついてくる。森友加計もそうだったし、今回の二千万円も同じだ。野党が揚げ足をとろうとしなければ、自民党だってここまでなりふり構わず行動しない。だから、悪いのは野党が何にでもけちをつけようとすることにある。

テレビ局は国民のニーズを外さない

さて、読者の方の予想通り、話はここで終わらない。野党が死に物狂いでしがみつくのは、このネタがメディアで取り上げられやすいからだ。ワイドショーは夫婦または親子の殺人、自動車事故、そして二千万円を取り上げる。テレビで取り上げられやすい案件に飛びつく。これが野党の鉄則で、雇用統計問題はテレビ的に盛り上がらず失敗したので、テレビネタには何が何でも食いついてくる。

さあ、やっと真犯人がわかった。やっぱりテレビだ。昨今悪いのはネットだったが有力な対抗馬はテレビだ。世の中、ネット、スマホ、テレビ、3つのどれかが悪いのだ。

しかし、である。

私はテレビを尊敬している。いや侮れないと思っている、というのが正しい。

自民党も野党も、国民の真のニーズを外していることがある。支援者の意見に影響を受けすぎる。だから、国民は望んでいないのに、変なスキャンダルを争点にしようとする場合はある。

しかし、テレビ局は外さない。彼らは数字、視聴率で生きている。数字はごまかせない。毎日、毎時、いや毎秒出てくる。だから、彼らは思い込みで視聴者が求めていない番組、ネタを取り上げれば、ただちにしっぺ返しにあうため、どんなに傲慢で、どんなに鈍感で、どんなにアホでも、視聴者のニーズにすぐ戻ってくる。

彼らが二千万円を取り上げる以上、取り上げ続ける以上、二千万円は、誰でも知っていた当たり前の事実で、大して意味のない数字ではなく、国民にとってもっとも重要な数字なのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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