コラム

日本人が「ジャニーズの夢」から覚めるとき

2023年04月15日(土)12時21分

私たちに今できること

ジャニーズ事務所に対して大手メディアが自動的に忖度し、報道機関としての役割を時に放棄すらしてしまうのは、組織的な問題や構造的な問題もあるのだろうけど、結局は「ジャニーズタレントに人気があるから」に違いない。

私自身、ジャニーズタレントの出演していたドラマを楽しみに見ていたこともあるし、カラオケで十八番にしている曲もある。容姿だけでなく、発言や態度なども含めてかっこいいと思うこともある。テレビに出ていると、つい見てしまう。

でも、今後はなるべく、不用意に拍手や声援を送るのはやめようと思う。もちろん、現在活躍しているタレントたちには何の罪もない。むしろ性加害を受けていた被害者である可能性が高いとも言え、かえって応援した気持ちにもなる。

だが、所属タレントを応援すればするほど、ジャニーズ事務所は権力を増し、性加害は「なかったこと」にされてしまう。そのような構造になっている以上、申し訳ないけれど、もう無邪気に応援することは私にはできない。

また、所属タレントのなかには社会的影響力が非常に大きい者や、ニュースキャスターとして社会に注意喚起するような立場の人もいる。

喜多川擴氏の性暴力を一種の必要悪として我慢し黙認してきた彼らは、被害者であると同時に加害者と利害が一致しているという、複雑な立場にある。それでも、性暴力を有耶無耶にする組織に所属していることは、紛れもない事実だ。そうした人々が企業のアンバサダーを務めることに私は少々違和感を覚えるし、ニュース番組で性犯罪について伝えたり語ったりすることなどできるのだろうか、とも思う。

『売れるためには権力者からの性暴力を受け入れなくてはいけない』という考えは明らかに歪んでおり、その価値観のなかで生きているタレントたちを応援することは、たとえどんなに功績が立派でも、結局は業界内の腐敗を進行させることになる。

所属タレントが出ているテレビ番組があれば、チャンネルを変える。CMに出ていれば、その商品はなるべく買わない。徹底することは難しいが、少しずつ意識してみてはどうだろう。それが私たちに今できることだ。

ジャニーズ事務所は報道機関からの取材に対し「コンプライアンス順守の徹底」、「ガバナンス体制の強化等への取り組みを、引き続き全社一丸となって進めてまいる所存」など、木で鼻をくくった定型文のような返答を繰り返している。性加害については一切触れず、問題から目を背けて「なかったこと」にしようとしている。

それはまさに、15歳のカウアン氏に性加害を行った後、喜多川擴氏が性的行為などまるで「なかったことのような雰囲気」で過ごしたのとよく似ている。

ジャニーズ事務所とその所属タレントたちが、喜多川擴氏の性暴力問題を「なかったこと」にする以上、私たちは彼らに「さよなら」を言わなくてはいけない。この問題は結局のところ、芸能界やメディアの問題である以上に、私たち自身に投げかけられた問題なのである。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)など。

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