最新記事
シリーズ日本再発見

『ゴースト・オブ・ツシマ』でサムライ映画の世界を戦い抜け

Lots of Fighting Fun but Not Kurosawa

2020年08月11日(火)17時00分
アンドルー・ウェーレン

物語の舞台となる対馬の風景は美しく描き込まれている SUCKER PUNCH PRODUCTIONS/SONY INTERACTIVE ENTERTAINMENT

<日本の中世が舞台の新作アクションゲームは、映像美と操作性が魅力だが黒澤映画の高みには届かず>

プレイステーション4用ゲーム『ゴースト・オブ・ツシマ』の舞台は13世紀の日本だ。主人公のサムライ・境井仁は、農民や武士から仲間を募り、対馬に上陸したモンゴル軍の撃退と大将であるコトゥン・ハーンの打倒、そしてさらわれた志村家当主で地頭でもある伯父の奪還を目指す。開発したのはアメリカのゲーム開発会社サッカーパンチ・プロダクションズだ。

一風変わったアクションゲームだ。舞台となる世界はいわゆる「オープンワールド」で、自由に動き回って探索が可能。プレーヤー自身が自由に遊び方を開拓していく「サンドボックス」と呼ばれるタイプのゲームではないものの、ミッションをこなし敵と戦う以外にも、マップ上には訪ねる場所ややることがたくさんちりばめられている。

ゲームのクリアに必要なのは探索とミッションの遂行、村や陣地をモンゴル軍から解放することの積み重ねだが、それと並行して境井の戦闘力や装備も向上させなければならない。それ自体はこのジャンルのゲームとしては珍しくないが、本作はあたかも流れるようにゲームの進行が調整され、オープンワールドという特徴を巧みに生かすことで、これまでのゲームとは一線を画す仕上がりとなっている。

アイテムや武器や薬の素材集めといった、このジャンルのゲームにありがちな作業もこなす必要がある。時間をかけて鉄や金や竹や麻などを集めなければならないのだが、このあたりも驚くくらいすっきりした作りになっていて、面倒くささを感じさせない。

ゲーム内には、このジャンルの進化版と言っていいくらい革新的で洗練された要素もある。その一例が、進むべき方向を風などの映像表現で示す手法の採用だ。おかげで画面の隅にあるミニマップを横目で見なくても正しい方向に進めるようになった。

敵との戦闘がこれまたよくできている。操作のバランスがよく練られている上に、努力すれば熟達は可能。メインストーリーの終盤にはほとんど向かうところ敵なしの状態になるはずだ。

ただし一騎打ちとなると話は別。基本戦法は同じなのだが、多くの敵と戦う場合に比べて動きの正確さが求められる。映画のクライマックスにふさわしいような場所(滝や墓地、スイレンの咲き乱れる池など)を舞台に、それまで広角レンズの視点だった画面が一転、戦う2人がクローズアップされる。

正確に相手の攻撃を避けたり防いだりしないと容赦なく倒されてしまう。単にボタンを連打するとか、前にうまくいったからといって同じ戦術に頼っていては勝てない。プレーヤー自身の「戦闘力」を磨く機会にもなっている。

中途半端な「黒澤モード」

重要な軍事作戦やかなりの数のサイドミッションを完了しても、やることはまだたくさん残っている。温泉や神社に行くもよし、歌を詠んだり竹を切るミッションもある。マップ上には足を踏み入れていない地域も残っているから、そこには制圧すべき敵の陣地があるかもしれない。

オープンワールドではあるものの、周囲の環境への働き掛けがあまりできないのは残念だ。竹林で周囲の竹を切ることもできないし、そこらの家の中に入ることもできない。生き生きと描かれた書き割りのようなものだが、この限界さえ受け入れてしまえば、素晴らしい品質の映像美であることに間違いはない。

<関連記事:米出版界を震撼させる楳図かずおの傑作ホラー『漂流教室』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

中国が首脳会談要請、貿易・麻薬巡る隔たりで米は未回
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中