最新記事
シリーズ日本再発見

米出版界を震撼させる楳図かずおの傑作ホラー『漂流教室』

A Perfect Edition of Horror

2019年12月24日(火)17時15分
アンドルー・ウェーレン

『進撃の巨人』なども手掛ける翻訳家ドルヅカの新訳も素晴らしい UMEZZ PERFECTION! 8 HYORYU KYOSHITSU ©2007 KAZUO UMEZZ/SHOGAKUKAN

<連載開始から半世紀近くが過ぎた今も衝撃度満点の『漂流教室』が英訳「完全版」で発刊>

子供への暴力は多くの学校で現実の問題かもしれないが、芸術作品の中で描かれることはまれだ。そんなタブーをぶち壊したのが、楳図(うめず)かずおのホラー漫画『漂流教室』(小学館)だった。その衝撃は、1972年に週刊少年サンデーで連載が開始された当時から、今に至るまで色あせない。

アメリカでは既に全11巻のペーパーバック版が出版されているが、ここにきて日本の漫画を数多く英語圏に送り出してきた米ビズ・メディアから新装ハードカバー「完全版」の刊行が決定。10月に第1巻が発売された。

『漂流教室』は、ぞっとするがシンプルな設定で始まる。激しい揺れに襲われた大和小学校の教師・児童862人が校舎もろとも消滅した。だが彼らは生きていて、人類滅亡後の荒廃した未来に学校ごと飛ばされていたのだ。

現在83歳の楳図が漫画を書き始めたのは、50年代のこと。今もその存在感は大きく、伊藤潤二(『うずまき』)ら後進に影響を与えている。昨年1月には『わたしは真悟』が、仏アングレーム国際漫画フェスティバルで「遺産賞」に輝いた。

シェルドン・ドルヅカによる新英訳も素晴らしい今回の完全版には、ホラー作家のモリー・タンザーが編集者として参加した。第1巻は744ページの大ボリュームだ。

子供が殺し殺される戦慄

『漂流教室』の人間観は、政府の命令で中学生が殺し合う高見広春の小説『バトル・ロワイアル』よりもさらに暗い。異世界に置き去りにされた児童と教師は過酷な生存競争に直面する。彼らが意味もなく死に、殺戮を行うさまは、楳図が描く子供たちが丸顔に大きな目の無垢な風貌(手塚治虫の影響を受けたと言われる)なだけに余計に衝撃的だ。

主人公の高松翔は小学6年生のやんちゃ坊主。地震の朝、母とけんか別れしたことを悔やむが、母との絆がやがて元の世界との架け橋になる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

香港取引所、東南アジア・中東企業の誘致目指す=CE

ワールド

米ミネソタ州議員射殺事件、容疑者なお逃走中 標的リ

ワールド

IEA、石油供給不足なら備蓄放出の用意 OPEC「

ワールド

金価格約2カ月ぶり高値、中東紛争激化で安全資産に逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中