コラム

「ロシア支持のくせに我々の援助を受け取るな」スウェーデンのマリとの決裂に他の先進国が続かない3つの理由

2024年08月14日(水)20時40分

スウェーデンのフォルセル大臣による「我々から援助を受け取るな」発言は、マリによるウクライナ断交を批判するなかで出てきたものだ。

スウェーデンは長く"永世中立"を国是としてきたが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてNATO加盟を申請し、今年3月7日に正式にメンバーの一員になった。

スウェーデンに続く国はあるか

「国際的に孤立していない」と強調したいロシアにとって、アフリカの重要性はこれまでになく高まっている。そのため先進国との争奪戦もエスカレートの一途を辿っている。

マリとスウェーデンの"決裂"はそうしたなかで発生した。

それではスウェーデンに続いて、アフリカに対して「ロシアと関係をもつなら援助しないぞ」という国は先進国のなかから出てくるか。

それはかなり疑問だ。そこには3つの理由がある。

第一に、ウクライナ侵攻を理由に先進国が援助を削減すれば、単にロシアのナワバリが広がりやすくなり、ひいては中国のアフリカ進出に弾みをつけかねない。

冷戦時代なら、今回のスウェーデンの対応は珍しいものでなかった。しかし、グローバル化の進んだ現代の国際関係は、冷戦時代と大きく異なる。

先進国も中ロもグローバル・サウスを取り込む必要にかられ、自由貿易の原則のもと、それぞれ同じ国にアプローチしている。複数の相手から同時に求愛されれば、求愛された側の方が発言力は強くなるのは、個人でも国家でも同じだ。

つまり、"援助する国"が"援助される国"を選べるとは限らず、むしろその逆の構図の方が強くなりやすい。

それを無視して「援助してやるんだからこっちに合わせろ」という態度をむき出しにすれば、提供金額にもよるだろうが、「援助国は別におたくだけじゃないんで」と流されても不思議ではない。

マリは先進国の"敵"か?

第二に、今回の"決裂"のきっかけになった、ウクライナによるマリ反体制派支援の疑惑がかなり問題の多いものであることだ。

ウクライナ政府はロシアの軍事力を削る目的で、シリアやアフリカで軍事作戦を展開している。

これに関して、マリ政府はウクライナの支援が同国北部のアルカイダ系組織にも渡っていると主張する。

マリの反体制派はウクライナと「ロシアよりのマリ政府と対立する」という一点だけで共通する。

マリはこうした主張のもとウクライナと断交したのだが、スウェーデン政府は断交そのものを批判しながらも「ウクライナが過激派を支援しているなんてフェイクニュースだ」とは言わない。

これについてアメリカをはじめ他の先進国が沈黙したままであることも、疑惑の濃さを物語る。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story