最新記事
ロシア

ワグネル戦闘員がマリでの待ち伏せ攻撃で数十人死亡──アフリカ軍事政権の間でロシア傭兵の信用失墜か

Moscow's Protection Now 'More Difficult to Sell' after Mali Disaster—Expert

2024年7月31日(水)16時05分
ブレンダン・コール
ワグネル創設者プリゴジンの銅像と戦闘員たち

生き残るのは伝説だけ?── 昨年マリで死んだワグネル創設者プリゴジンの誕生日に当たる6月1日、その墓の上に公開された銅像と戦闘員たち(ロシアのサンクトペテルブルク) Artem Priakhin / SOPA Images

<アフリカ諸国の政府に安全保障サービスを提供するのと引き換えに資源の採掘権を得てきたロシアだが、ワグネルの弱体化で今後は売り込みが難しくなりそうだ>

ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの部隊が、西アフリカのマリで少数民族トゥアレグ反乱軍による待ち伏せ攻撃を受け、兵士数十人が死亡した。この事件を受けて、アフリカの軍事政権は、これまで通りロシアの保護を求めることを考え直すのではないかと、ある警備のプロは指摘する。

【動画】マリの空港で大型輸送機が着陸失敗、滑走路を外れて爆発 ワグネル傭兵が搭乗か

ワグネルは軍事政権誕生後の2021年にマリに入国し、それ以来駐留を続けている。ブルキナファソやニジェールなど他の西アフリカ諸国ともつながっているとされ、資源の採掘権と引き換えに、クーデターの脅威から軍事独裁政権を守る警備サービスを提供していると言われている。

昨年、創設者のエフゲニー・プリゴジンがウラジーミル・プーチンに対する反乱の末、飛行機事故で亡くなった後、ロシア政府は新たな準軍事組織「アフリカ軍団」を立ち上げて、ワグネルの部隊を管理下におき、その事業を引き継いでいる。

中東・アフリカの安全保障およびインテリジェンスを専門とするイギリスの警備会社パンゲア・リスクのロバート・ベッセリング最高経営責任者(CEO)は本誌の取材に対し、同社は過去1年間、西アフリカ、特にマリで、ロシアの準軍事組織における死傷者の増加、戦場での戦略的失策、ロシアの軍用ハードウェア損失に関する動向を監視してきたと語った。

高額の契約に見合わない

今回の待ち伏せ攻撃が起きたのは、アルジェリアとの国境に近いティンザワテン村の郊外。ロシア人傭兵とマリ人関係者少なくとも80人が殺害され、少なくとも15人が誘拐されたと、ワグネルと関係のあるブロガーが報じている。

マリの軍事政権と敵対する「平和・安全・開発のための恒久戦略枠組み」(CSP-PSD)は、イスラム過激派勢力の支援を受けてこの作戦を実行したと明らかにした。

ベッセリングは、ロシアのアフリカ軍団が昨年の相次ぐ脱走と予算削減に続いて軍事的敗北を喫したことは「ワグネル・グループの能力の衰えを示している」と述べた。

「ロシアのアフリカ軍団が大きな敗北を喫したことで、ロシアはアフリカの軍事政権に安全保障サービスを輸出することが難しくなった。西アフリカ以外のアフリカでロシアの準軍事サービスを契約している国が少ないのは、そのためだろう」と、ベッセリングは言う。

「ロシアの準軍事組織との契約には鉱物の採掘権を与えるなど高いコストが伴う。その上人権侵害は日常茶飯事で、現地武装勢力との戦闘実績も低いことから、アフリカでもその他の地域の国でも、安全保障をロシアに依頼するケースは減るだろう」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

エルサルバドルへの誤送還問題、トランプ氏「協議して

ワールド

米民間セクター代表団、グリーンランドを今週訪問 投

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中