コラム

高度福祉国家、環境保護や男女平等の先進国...「優等生」スウェーデンで民族主義が台頭した理由

2022年09月20日(火)17時40分

また、同性婚を容認する一方、「子どもは家庭で育てるのが好ましい」という、いわゆる伝統的な家族観も鮮明である。

さらに、ナショナリズムの延長線上で、共通通貨ユーロに代表される共通の制度・政策を導入するEUに対しても、強い反感を示している。

その主張やスタイルにはアメリカのトランプ前大統領を彷彿とさせるものがあり、今回の選挙でも「スウェーデン第一」や「スウェーデンをもう一度偉大に」といったスローガンが飛び交った。

極右政党としての顔

日本のメディアには欧米のデリケートな話題を避ける傾向が強く、「欧米=味方」イメージを強調したいのか、ウクライナ侵攻後にはとりわけそうした配慮が目立ち、エリザベス女王崩御の話題と比べてスウェーデンの選挙に関する報道は驚くほど少ない。

これに対して、欧米メディアの一部はスウェーデン民主党に関心を寄せている。そのルーツがナチズムにあるからだ。

1988年に発足した民主党は、その創設者の一人グスタフ・エクストロームが親衛隊(SS)志願兵だったことに象徴されるように、思想的にはナチスにルーツをもつ。ナチズムは1930年代、北欧を含む欧米全域で支持者を獲得していたが、ヒトラーは北欧人こそドイツ人と同等あるいはそれよりさらにアーリア的とみなしていた。

その系譜をくむ民主党の支持者は、1990年代にはスキンヘッドなど極右的、ネオナチ的スタイルが目立った。

もっとも、近年の民主党は若者の支持を集めるため、「いかにも極右」な古いスタイルを廃止しているだけでなく、これまでナチズムと何ら関係はなかったとしきりに強調し、「よりソフトな」イメージチェンジを進めている。

それでも民主党には、極右あるいは白人至上主義としての顔が厳然としてある。2014年、民主党ストックホルム支部長は移民を「恥知らずな嘘つき」と呼び、辞任に追い込まれた。2016年には、党所属の議員がナチスを称賛し、ガス室に向かったユダヤ人を従順な「羊」に喩えて物議を醸した。

ロシアとのねじれた関係

こうした民主党を中心とする保守連合が選挙で勝利した直接的なきっかけはウクライナ侵攻だったとみられる。

長年の国是である中立を捨ててNATO加盟を申請したように、スウェーデンではかつてなく国防意識が高まるとともにナショナリズムも強まっている。この変動は、軍備増強と強い国家を掲げる民主党が政権を握る、最後の一押しになったといえる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story