コラム

安全なカナダでなぜ? 「トラック軍団占拠」の影にいる者

2022年02月09日(水)11時30分

そして、彼らを煽っているのが、極右団体スリー・パーセンター(Three Percenter)だ。

スリー・パーセンターはもともとアメリカの極右団体で、ムスリムを標的にした爆弾テロや、ブラック・ライブズ・マター(BLM)参加者への襲撃などを繰り返してきた。アメリカ政府は国内の白人団体の取り締まりに及び腰だが、カナダ政府はスリー・パーセンターの支部を昨年「テロ組織」に指定している。

オタワ中心地を占拠するフリーダム・コンボイの参加者にはスリー・パーセンターの旗やナチスの旗を堂々と掲げる者も含まれ、反イスラーム的ヘイトメッセージを記した横断幕も掲げられている。そのため、カナダの人権団体アンチヘイト・ネットワークは「フリーダム・コンボイは極右の乗り物以外の何物でもない」と批判する。

極右が反ワクチン抗議デモに紛れたり、それを扇動したりすることは、今や欧米で珍しくない。「反社会的」とみなされやすい極右にとって、反ワクチンを叫ぶ一般市民と歩調を揃えることは、社会的な認知を得るために便利な隠れミノになるからだ。

また、そもそも欧米の極右は公権力への不信感が強く、税金の納付さえ「政府による強奪」と拒絶する者も珍しくない。その極右にとって、ワクチン接種や自宅待機の強制はイデオロギー的にも受け付けられないものである。

フリーダム・コンボイはクラウドファンディングを通じて資金協力を募っていたが、これにトランプ前大統領を含むアメリカの保守的政治家が応じたことは、その意味では不思議でない(内外から批判が高まった結果、寄付金の返還が始まっている)。

こうして極右が便乗して膨れ上がったフリーダム・コンボイをトルドー首相は「市民には抗議する権利があるが、ヘイトは答えにならない...まじめに働く者を侮辱したり、その権利を侵害したり、ホームレスから食べ物を奪う者を我々は恐れない」と強く非難している。

世論調査によると、カナダ市民の68%がオタワ占拠を「普通ではない」と感じており、フリーダム・コンボイに抗議するデモもしばしば発生している。

強制排除はあり得るか

緊急事態を宣言したオタワのワトソン市長は、デモ隊のバリケードなどによって消防隊の活動が妨げられるといった問題をあげて「我々の街を取り戻さなければならない」と述べ、連邦政府レベルでの対応が必要と強調した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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