コラム

タリバンと手を組む中国──戦火のアフガニスタンを目指す3つの目的

2021年08月02日(月)19時25分

しかし、タリバンが攻勢を強め、全土を掌握すれば、「国家再建」のためのインフラ整備などで中国が投資を増やす余地が広がる。それは中国政府にとって「一帯一路」構想の空白地帯だったアフガニスタンに一気に進出し、イランやパキスタンとのルートを拡大させる足がかりになる。

ウイグルの締め付け

第二に、新疆ウイグル自治区での反政府運動の取り締まりを強化することだ。

新疆ウイグル自治区に多いウイグル人のほとんどはムスリムだ。そのため、1990年代から断続的に続いてきた新疆での反政府運動の参加者のなかには、イスラーム武装組織に吸収される者も少なくない。実際、2014年にシリアで「建国」を宣言した「イスラーム国(IS)」には中国から5000人が参加したといわれる。

なかでもアフガニスタンは中国と隣接することもあり、「タリバンに加わるウイグル人」は2000年代から報告されてきた。

米国との和平合意をきっかけに、タリバンは「他国を攻撃する者にはアフガニスタンの土地を使わせない」と言明してきた。それは主にアルカイダなどの国際テロ組織についての文脈で語られてきたことだ。

しかし、今回の外交団は「中国に敵対する者にはアフガニスタンの土地を使わせない」と踏み込んだ表現をしている。当然そこにはウイグル人も含まれることになる。

タリバンにしてみれば、同じムスリムとはいえウイグル人の協力者を引き込むことより、中国からの投資を呼び込むことに大きなメリットを見出しても不思議ではない。一方、中国にしてみれば、ウイグル締め付けを強化できるだけでなく、タリバンとの協力によって「ウイグル=テロリスト」というイメージ化を強化できる。

それはイスラーム圏で中国の評判を大きく傷つけない宣伝材料になる。

「史上最高の大国」

そして最後に、タリバン支援は中国にとって「米国を凌ぐ大国」としてのイメージ化の一歩となる。

ユーラシア大陸の中央部に位置するアフガニスタンは、その地政学的重要性から常に大国との戦いに呑み込まれてきた歴史を持つ。19世紀、この地は大英帝国とロシア帝国の覇権争いの舞台となり、20世紀にはソ連軍の侵攻を受け、そして2001年9月11日の米国同時多発テロ事件後は、米軍との戦いが続いた。

その米国も結局アフガニスタンに和平を築くことはできなかったばかりか、タリバンとの戦闘で消耗し、撤退していった。これは米国の事実上の敗北であり、米国との和平合意を受けてタリバンが「勝利」を宣言したことは当然ともいえる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=大幅続伸、ダウ500ドル超値上がり 

ワールド

米豪首脳がレアアース協定に署名、日本関連含む 潜水

ワールド

米控訴裁、ポートランドへの州兵派遣認める判断 トラ

ワールド

米ロ外相が電話会談、ウクライナ戦争解決巡り協議=国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 7
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 10
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story