コラム

日本とフィリピンを結んだアキノ前大統領──皇室との交流が開いた新地平

2021年06月28日(月)18時35分
ベニグノ・アキノ

華麗な出自ながら気さくな人柄で評価されていたベニグノ・アキノ(2017年12月) DONDI TAWATAO-REUTERS


・先日死去したフィリピンのアキノ前大統領は在任中、日本との関係強化を進めた。

・その背景には、海洋進出を進める中国との対立があった。

・しかし、アキノがプロモートした皇室との交流は、日本とフィリピンの関係に、実利的協力を超えた新たな次元を切り開いたといえる。

フィリピンのアキノ前大統領は日本との関係を強く意識した政治家だった。とりわけ2016年1月に当時の天皇・皇后両陛下の戦没者慰霊の旅をプロモートしたことは、日本とフィリピンの関係に新たな次元を開くものだったといえる。

名門一家の長男として

2010年から2016年までフィリピン大統領を務めたベニグノ・アキノ3世が6月24日、死去した。

現在のロドリゴ・ドゥテルテ大統領は麻薬ギャングの銃殺を容認したり、女性蔑視などのきわどい発言を繰り返したりするなど、良くも悪くもとにかく型破りだ。これと比べるとアキノには強烈なまでのリーダーシップはなく、日本での知名度は決して高くない。

しかし、ヘビースモーカーのアキノは大統領になってからも禁煙のレストランでは外に出てタバコを吸うなど、これまた良くも悪くも気さくな人柄や良識的な振る舞いに定評がある大統領だった。

その出自は華麗といってよい。アキノの父ベニグノ・アキノ・ジュニアは20年にわたって独裁政権を率いたフェルディナンド・マルコス(任1965-1986)に抵抗した上院議員で、1983年に暗殺された。母コラソン・アキノはそのマルコス体制を、民衆を率いた「ピープル・パワー・レボリューション」と呼ばれる革命で1986年に打倒し、その後大統領となった(任1986-1992)。

1987年に軍が起こしたクーデタではアキノ本人も銃撃され、一命を取り留めたものの、その時受けた銃弾の一発は終生アキノの首に埋まっていたという。

有名な独身貴族で、大統領就任直前にも20歳以上離れたテレビ番組の女性パーソナリティーと浮名を流すなど、フィリピン史上初めて未婚の大統領だった。これは家族の結びつきを重視するカトリックが主流のフィリピンでは異例で、ドゥテルテとは別の意味で自由だったといえる。

大国の狭間のフィリピン

その一方で、大統領としての仕事で注目すべきは、日本やアメリカとの関係強化に力を入れたことだ。その背景には、中国との関係悪化があった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米、イランのフーシ派支援に警告 国防長官「結

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story