コラム

AI(人工知能)をめぐる軍拡レース──軍事革命の主導権を握るのは誰か

2021年06月16日(水)16時45分
ヒト型のロボット兵器

自律型ロボット兵器の目的は自軍兵士の犠牲を減らし、人員不足を補うこと Al Jazeera English/YouTube


・アメリカではこれまで国家権力と距離を保ってきたシリコンバレーでも、AIの軍事利用に協力する動きが広がっている。

・そこには中国などの台頭によって「AI分野でのアメリカの優位が脅かされている」という危機感がある。

・軍事利用を前提とするAI開発レースの本格化は、戦争のあり方を大きく変える可能性を秘めている。

AIの発達は我々の生活を便利にする一方で、戦争を劇的に変えるポテンシャルも秘めており、AI開発はいまや核兵器のそれと同じく、大国間の軍拡レースの主な舞台になっている。

ロボット兵器から効率的な作戦まで

G7サミットに先立つ2日前の6月10日、ホワイトハウスはAI研究のタスクフォースを新たに設置すると発表した。これは国をあげてAIの研究・開発を加速させるものだが、その念頭には経済的な効果だけでなく軍事利用もある。

人間の歴史上、鉄砲、航空兵力、核兵器などの登場は、それまでの戦争のあり方を大きく変えた。AIの登場は、これらと並ぶほどの軍事革命の一つといわれ、特にアメリカで研究・運用が進んでいる。

そこには(映画「ターミネーター」のように完全なヒト型でないとしても)自律して作動するロボット兵器の実用化だけでなく、戦場で孤立した部隊の指揮官が効果的・効率的な命令を下せるシステムの構築など、作戦全般にかかわる領域までも含まれる。

AIの軍事利用が進むなか、アメリカはこの分野で同盟国と協力することにも関心をもっており、昨年のG7サミットでは各国首脳がAI開発における協力を確認した。

オープンな技術開発からの転換

アメリカをはじめ各国におけるAI開発競争は、技術開発の大きな変化を象徴する。

近代以降、技術開発は国家主導の軍事分野で進みやすかった。コンピューターがもともと第二次世界大戦中にロケットの弾道計算などのために開発されたものであることは、その代表だ。

しかし、冷戦終結後の1990年代以降、技術開発の主役はシリコンバレーに代表される民間企業になり、それにつれてヒトや情報が国境を超えて交わる「オープンな研究」が主流になった。

ところが、近年の先進国では国家主導で、軍事利用を前提とするAI開発が広がっている。これに対しては消極的な意見もある。例えば、GoogleのAI学習機能開発にも携わったジョージタウン大学のティム・ファンは、AIをめぐる軍拡レースが技術の囲い込みを生み、世界全体にとっての不利益になると警鐘を鳴らしている。

「AIのリーダーが世界を支配する」

それでも国家が技術開発で大きな役割を果たす潮流は、先進国とりわけアメリカですでに大きなうねりになっている。その背景には、アメリカの優位が脅かされるという危機感がある。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story