コラム

日本人がヘイト被害にあうリスク──データにみる他のアジア系との比較

2021年03月23日(火)16時10分

いずれにしても、被害全体に占める割合が低いとしても、日系もまたアジア系に対するヘイトの標的になっていることは確かだ。日本ではトランプを称賛する者が今もいるが、欧米に暮らす同胞のリスクを高めている点で、彼らは不透明なコロナ対応で批判を招いた中国政府と変わらないともいえる。

当たり前の場所に潜むリスク

それでは最後に、アメリカのどんな場所のリスクが高いかをみていこう。

Stop AAPI Hateの報告によると、この1年間にアジア系ヘイトクライムが発生した割合ではカリフォルニア州が1691件(全体の44.56%)で圧倒的に多く、517件で第2位だったニューヨーク州(13.62%)以下を大きく引き離した。

カリフォルニア州が目立つのは、アジア系人口が集中しているためと考えられる。先述の2010年の人口統計によると、アメリカでアジア系の割合の高い街トップ10のうち、9カ所までがカリフォルニア州に集中していた(残り一つはハワイのホノルル市街地)。

日系もその例外ではない。外務省の統計によると、長期滞在者の届け出先の在外公館別にみた場合、ロサンゼルス総領事館の管区には9万5000人以上が暮らしており、これはアメリカで最多であるだけでなく世界最多でもある。サンフランシスコ総領事館に届け出ている人を加えると、長期滞在者だけでカリフォルニア州には15万人以上が暮らしている。

しかも、特別な場所に近づかなければヘイトクライムの被害にあわないとは限らない。Stop AAPI Hateの調査では、現場のうち最も多かったのは職場(35.4%)で、これに路上(25.3%)、オンライン(10.8%)、公園(9.8%)、公共交通機関(9.2%)、自宅(9.2%)、学校(4.5%)などが続いた。

ムスリムやユダヤ人の場合、宗教施設などでの被害が注目されやすいが、アメリカ政府が行なった、アジア系に限定しないヘイトクライムの調査でも、日常生活で当たり前のようにいる場所こそ最も被害にあいやすいという傾向はすでに報告されている。

アメリカ、とりわけカリフォルニアに暮らす日系人、在留邦人にとって、リスクは現実のものとしてある。白人テロはアジア系全体にとっての脅威であり、日本人もまた無縁でないのだ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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