コラム

「テロ支援国家」スーダンはなぜイスラエルと国交正常化するか

2020年10月27日(火)14時00分

ムハンマド皇太子は以前から、宿敵イランへの包囲網を強化するため、イランを同じく敵視するイスラエルに秋波を送り、アラブ諸国にイスラエルとの国交正常化を促してきた。そのなかには、バシール政権末期、中国との関係が怪しくなって以来、サウジアラビアとの関係を深めてきたスーダンも含まれる。

しかし、そのムハンマド皇太子でさえリスクが高いのだから、生まれたてで権威が確立され切っていないスーダン暫定政権が国内から多くの非難や罵倒に直面することは想像に難くない。それは端緒についたばかりのスーダンの民主化を危うくするものでもある。

大国の踏み台となったスーダン

しかも、それは暴力の蔓延を促しかねない。

スーダン国内では、バシール政権のもとで庇護されていたイスラーム過激派が暫定政権に移行した後も勢力を温存させ、再起を図っている。イスラエルとの国交正常化は、これらにテロ活動を正当化する口実を与えるものだ。

折しもパリで「表現の自由」と「宗教の尊厳」が再び問題として浮上し、イスラーム過激派が活性化しかねない状況にある。

しかし、それはアメリカにとって大きな問題にはなり得ない。民主化や人権尊重を口にしていても、アメリカにとってはその国がアメリカに敵対しないことや、イスラエルを承認することの方が、はるかに優先順位が高い。逆に言えば、これらの条件さえ満たせば、たとえ事実上の軍事政権であってもアメリカが問題視しないことは、スーダンの隣のエジプトをみればわかる。

中国寄りの「独裁者」を打ち倒した後も、スーダンが大国の動向に左右されることに大きな変化はないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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