最新記事

イスラエル

ネタニヤフはノーベル平和賞受賞に値するか?

The Netanyahu Dilemma

2020年9月29日(火)19時00分
トム・オコナー

9月15日、ホワイトハウスでトランプらと署名式に臨んだネタニヤフ Tom Brenner-REUTERS

<UAEおよびバーレーンとの国交正常化合意により来年のノーベル平和賞候補者に推す声もあるが、パレスチナを筆頭に反発も強く、容認し難いと考える人は少なくない>

9月15日、ホワイトハウスの大統領執務室を訪ねたイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、報道陣の前でドナルド・トランプ米大統領から記念品を贈られた。そして1年後、ネタニヤフが世界で最も栄誉ある贈り物、すなわちノーベル平和賞を贈られる......かもし れない。

今回、ネタニヤフがワシントンを訪れたのは、アメリカの仲介により、アラブ首長国連邦(UAE)およびバーレーンとの歴史的な国交正常化合意に署名することが目的だった。来年のノーベル平和賞受賞者が決まる前には、サウジアラビアとも同様の合意が結ばれる可能性がある。

ネタニヤフにノーベル平和賞? 誰も全く予想しなかったことが現実にならないとも限らない。20世紀半ばから対立し続けてきたイスラエルとアラブ諸国が国交正常化にこぎ着ければ、ノーベル平和賞に値する偉業と見なされても不思議はない。

とはいえ、ネタニヤフへの反感も根強い。ネタニヤフ政権のイスラエルは、パレスチナの多くの地域を占領し続け、人権侵害に手を染めているとして厳しく批判されている。

それに、UAEおよびバーレーンとの国交正常化は、パレスチナの人々の状況を改善するものでは全くない。これまで(少なくとも建前上は)アラブ諸国の支援を受けてきたパレスチナ人は、今回の合意に強く反発している。

それでも、ネタニヤフはワシントンで自らを平和の担い手と位置付けた。「私はイスラエルを強くするために、それも非常に強い国にするために努力してきた。歴史が実証しているように、強さは安全をもたらす。力は仲間をもたらし、トランプ大統領が繰り返し述べているように、究極的には平和をもたらす」

力による平和という考え方は、これまでのノーベル平和賞の理念とは相いれないように思える。しかし、ネタニヤフがアラブの2カ国との国交正常化を成し遂げたことにより、中東の国際関係が大きく変わったことは間違いない。

今回の国交正常化合意で最も驚かされるのは、国家としての地位を求めるパレスチナの主張がほとんど尊重されていないことだ。最近、アラブ諸国はパレスチナのためにあまり影響力を行使しておらず、イスラエルはパレスチナとの交渉にますます強硬な姿勢で臨むようになっている。

厳しい批判の声は消えず

パレスチナは、UAEとバーレーンの方針転換を「裏切り」と見なしている。「パレスチナ人の権利を犠牲にして譲歩することが地域の平和と安全と安定につながるという発想は、とんだ思い違いだ」と、パレスチナ指導部は本誌に宛てた書簡で述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ和平案の感謝祭前の合意に圧力 欧州は

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中