コラム

なぜ日本には緊急事態庁がないのか──海外との比較から

2020年03月05日(木)17時25分

先述のように、アメリカのFEMAなど諸外国の緊急事態専門の機関は、非常時に関係省庁の活動を指示する権限をもつ。言い換えると、専門機関のもとで各省庁の独立は一時的に停止する。

これに対して、日本の場合、災害などが発生するたびに全閣僚が出席する対策本部が立ち上げられる。この方式だと、各省庁は外部から指示を受けなくて済む。

つまり、日本では各省庁の独立と引き換えに、省庁横断的なワンストップの危機管理が実現してこなかったといえる。ここに、「族議員」の庇護のもとで各省庁のタテ割りが強まった55年体制の遺産を見出さずにはいられない。

「官邸主導」が目立つ安倍政権のもとでは、内閣官房もFEMAなど諸外国の常設機関を研究してきた。しかし、新型コロナ対策でも「自分が先頭に立って」と力説する安倍首相にも、首相が通常業務の合間に緊急事態に対応するのではなく、自らの代理として活動する常設の専門機関を設置するという意思は見受けられない。

筆者は以前、アフリカ大陸で初めて新型コロナ感染を確認したエジプトに関する記事で、エジプトの問題は「感染者を出した」ことではなく、情報を明らかにしないことにあると指摘した。しかし、それはエジプトに限った話ではなく、程度の差はあっても新型コロナは各国のガバナンスの問題を浮き彫りにしている。日本もその例外ではなく、新型コロナは戦後日本のあり方を改めて問いかけているのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

20200310issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック小反落、米雇用統計

ビジネス

NY外為市場=ユーロ上昇、ECB利下げを消化 ドル

ワールド

仏、ウクライナにミラージュ2000戦闘機を提供へ

ビジネス

FRB、銀行ストレステスト結果26日に公表 32行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり

  • 5

    なぜ「管理職は罰ゲーム」と言われるようになったの…

  • 6

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 7

    アメリカ兵器でのロシア領内攻撃容認、プーチンの「…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 3

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story