コラム

アフリカで初の新型コロナウイルス感染者、医療ぜい弱な大陸は大丈夫なのか

2020年02月16日(日)11時01分

新型コロナウイルス対策で検温を受ける旅行者(ガーナのコトカ国際空港、1月30日) Francis Kokoroko-REUTERS

医療体制が貧弱なアフリカ大陸は新型コロナウイルス感染が世界に拡散する拠点になりかねないと懸念されてきたが、初めて感染者が確認されたことで、懸念は現実味を帯びてきた。

エジプトでの感染例の発表

エジプト保健省は2月14日、新型コロナウィルスの感染者を確認したと発表した。これまでカメルーン人留学生の感染が武漢で確認され、現地で治療を受けるなど中国での例は報告されていたが、アフリカ大陸での感染例はこれが初めてだ。

エジプトは1956年にアフリカ大陸で初めて中華人民共和国と国交を樹立した国だ。そのエジプトでアフリカ大陸初の新型コロナ感染者が確認されたことは、奇妙な因縁ともいえる。

ともあれ、エジプト保健省は感染者を隔離・治療中と発表している。しかし、外国人であること以外、国籍や入国経路などを含めて、感染者に関する詳しい情報は明らかになっていない。

アフリカ大陸への懸念

これまでエジプトを含むアフリカ大陸では、新型コロナの感染例が報告されていなかったものの、感染拡大への懸念は大きかった。

世界保健機関(WHO)は1月31日の段階で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したうえで、とりわけぜい弱な国や地域を支援する方針を打ち出し、リスクが特に高い国としてアフリカ13カ国をあげていた。

貧困国が多いアフリカは総じて医療体制が貧弱だ。例えば、アフリカ大陸にはWHOの施設が28カ所にあるが、このうち新型コロナウイルスに感染しているかの確認ができるのは南アフリカとセネガルの2カ所だけだ。そのため、感染の確認でさえ時間がかかる。

だとすると、アフリカ各国の空港でも乗客の体温チェックなどの水際対策は強化されているが、その効果も疑わしくなる。その一方で、アフリカはアメリカ、ヨーロッパなどを含む各地とのヒトの往来が活発化している。

つまり、医療体制が貧弱なアフリカを経由して世界中に新型コロナが拡散する懸念がもたれてきたのである。

エジプトで感染者が確認された意味

この観点からみると、エジプトで感染者が確認されたことは、世界規模での感染拡大を示すことはもちろんだが、それ以外にも重大な意味がある。「これまでアフリカ大陸で感染例が報告されていなかったのは、実際に感染者がいなかったからではなく、確認できていなかっただけではないか」という見方が信ぴょう性を帯びてくるからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「人生で最高の栄誉の一つ」、異例の2度目

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

FRB議長、「第3の使命」長期金利安定化は間接的に

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story