コラム

G20大阪サミットの焦点・プラごみ規制――「日本主導の議論」の落とし穴

2019年06月28日(金)12時40分

インドネシア、ジャカルタの海岸線に集まったプラごみ REUTERS/Willy Kurniawan


・日本政府はG20大阪サミットでプラスチックごみ規制の議論を主導すると言ってきた

・しかし、軽井沢での関係閣僚会合での合意は、事前に日本政府が打ち出していた方針はほとんど反映されていない

・そのうえ、日本政府はリサイクルを重視しながらも、国内のリサイクル問題には手をつけようとしていない

海洋汚染の原因とされるプラスチックごみの規制はG20大阪サミットの一つの焦点で、日本政府は「議長国として議論を主導する」と力説してきた。しかし、事前の閣僚会合で合意された内容は、当初の野心的な目標からかけ離れたものだった。

G20大阪サミットに向けて

日本政府にとってプラごみ規制は因縁のあるテーマだ。日本は昨年6月のG7サミットで、英、仏、独、伊、加の5カ国が提出した「海洋プラスチック憲章」をアメリカとともに拒絶した経緯がある。

当時アメリカを含む欧米諸国ではスターバックスがプラ製ストローの廃止を進めるなど、すでにプラごみ規制の気運が高まりつつあったが、日本はそれに出遅れていた。

ところが、昨年から日本でも関心が急速に高まり、内外から「環境保護に熱心でない」とみられることへの警戒感が政府で強まった。さらに、国内でリサイクルしきれないプラごみの主な「輸出先」だった中国が受け入れをやめたことは、これに拍車をかけた。

そのため、日本政府はすでにプラごみ排出国になっている新興国が多く参加するG20でプラごみ規制の議論を主導する方針に転換。昨年末に環境省は、G20サミットに向けての提案として「プラスチック循環資源戦略」を取りまとめている。

G20関係閣僚会合で合意されたこと

それでは、日本はどのように「議論を主導」するのか。その内容をG20大阪サミットに先立って6月15~16日に開催された関係閣僚会合での合意からみていこう。

この会議は環境省と経済産業省の共催により軽井沢で開かれ、G20参加国・地域のエネルギーと環境の担当者が顔を揃えた。

ここではプラごみ削減の取り組みを報告・共有する枠組み(G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組)の創設が合意された。進捗状況などの情報を共有し、透明性を高めることで、G20メンバーはお互いに監視し合うことになり、そこに緩やかな拘束力が期待されるのである。

プラスチック資源循環戦略からの後退

ただし、この合意は大きな一歩とまではいえない。「いつまでにどのくらい削減する」といった期限や数値目標が盛り込まれていないため、「各国ができることを、できる範囲でやればいい」となりやすいからだ。

おまけに、環境省は「我が国が主導して」と強調しているが、この合意には日本政府が事前に打ち出していた方針がほとんど反映されていない

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

ダライ・ラマ「一介の仏教僧」として使命に注力、90

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強

ワールド

英外相がシリア訪問、人道援助や復興へ9450万ポン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story