コラム

日本の遺産を食いつぶす安倍首相──「イラン緊張緩和に努力」の幻想

2019年05月29日(水)12時40分

共通の趣味であるゴルフを楽しむ日米首脳(千葉県茂原カントリークラブ、2019年5月26日) Kimimasa Mayama/ Reuters


・安倍首相はトランプ大統領を厚遇することで「恩を売った」

・しかし、危機イランの緊張緩和に日本が努力すると提案したことは、アメリカ側に立って仲介するということで、効果は何も期待できない

・そのうえ、アメリカとの緊密ぶりだけをアピールして臨むことは、日本の遺産を食いつぶす行為でもある

来日したトランプ大統領に安倍首相は「アメリカとイランの緊張緩和に日本が努力する」と提案したが、イランをとりまく緊張の緩和に努力するつもりが本当にあるなら、これは全くお門違いと言わざるを得ない。

トランプに恩を売る戦術

令和初の国賓として5月25日に来日したトランプ大統領は手厚く歓迎され、ご機嫌で日本を後にした。いまや世界最大のトラブルメーカーとも呼べるトランプ氏をあえて厚遇し、その面子を最大限に立てることで、日本政府は「恩を売った」ともいえる。

実際、27日の共同記者会見ではトランプ氏が貿易問題での厳しい態度を引っ込め、日本と北朝鮮の対話を支援すると表明するなど、両国の緊密ぶりが目立った。いわばからめ手で影響力を確保しようとすることに賛否はあるだろうが、一つの外交手段として理解できる。

ただし、トランプ大統領が直面する難題の一つであるイラン危機に関して、安倍首相が「日米で緊密に連携しながら緊張状態を緩和したい」と提案したことは、行き過ぎと言わざるを得ない。それは危機の克服につながらないばかりか、日本の国際的な評価をも押し下げるとみられるからだ。

イラン危機と日本

ここでまずイラン危機の構図について確認しよう。

トランプ政権は5月初旬から「イランの脅威」を強調してペルシャ湾一帯に空母や戦略爆撃機を派遣してきた。これに対して、イランも短距離弾道ミサイルの配備を進めるなど応戦の構えをみせている。

これと並行して、アメリカと同盟関係にあるサウジアラビアの船舶などを標的にした、イランやそれに近いイエメンのフーシ派によるとみられるドローン攻撃も発生している。

資源エネルギー庁によると、2016年段階での中東から原油・天然ガスの輸入は日本のエネルギー輸入の87.2%を占め、このうちイランからのものは7.0%を占めた。イランへの制裁を強めるトランプ政権がイランから原油を輸入する国にも制裁を科す方針を打ち出したことで、日本は輸入元の変更を余儀なくされている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story