コラム

「イエローベスト」の暴徒化に揺れるフランス、その不穏な正体

2018年12月03日(月)16時00分

労働者の権利なども手厚く保護されてきたため、簡単にレイオフされない反面、これが経営者に新規採用を躊躇させ、失業率は慢性的に高い状況が続いてきた。また、安全保障上の観点から食糧とエネルギーの自給を重視してきたため、伝統的に農家への補助も手厚いが、これは財政赤字の一因にもなってきた。

1203mutuji2.jpg

中道を自認するマクロン氏は、イデオロギー対立から距離を置き、ビジネスを活発化させることで停滞の打破を目指したのだが、これは一定の成果を収めてきた。海外直接投資(FDI)を含む投資が活発化してリーマンショック(2008)後の最高水準に近づき、好調な企業業績を背景に失業率も低下した。今年7月の段階の調査で、企業経営者の54パーセントがマクロン大統領の活動に「満足している」と回答し、65パーセントが「改革が進んでいる」と回答している。

現代版「ブルジョワジーの王」

しかし、経済が成長した一方で物価も高騰し、給与の上昇は相殺された。また、若年層の失業率は高いままで、とりわけ外資流入で活気づく大都市と地方の格差も鮮明となった。

1203mutuji3.jpg

そのうえ、実業家出身のマクロン氏のいかにもビジネスエリートらしい言動が目立ったことも、広く反感を招いた。

例えば、「駅は面白いところだ」といい、その理由として「成功した者と何でもない者に会えるから」(前者は彼自身のようなビジネスエリートを指し、後者はほとんどの一般の人を指すとみてよいだろう)。また、就職活動に苦労している若者に対しては、「どこでも働き口はあるはずだ」と言ったうえで「私なら、あの通りを渡るだけで、きっと君に仕事を見つけてやれる」。

こうした発言は、マクロン氏の経歴からすれば正論かもしれない。しかし、いかなる意見も各自の立場から出るもので、誰もが認める正論などというものはない。少なくとも、マクロン氏のこれらの発言が多くの人に「強者の論理」と映っても不思議ではなく、これが党派や立場を超えたイエローベストを生む原動力になったといえる。

「仕事が見つからない」という失業者に、「そんなはずはない、通りを渡るだけで見つかるはずだ」と言ったマクロン


フランスでは革命後の1830年、当時新興勢力だった資本家(ブルジョワジー)に支えられてオルレアン公ルイ・フィリップが国王に即位し、王政が復活(七月王政)したが、そのもとでは資本家の利益が国策となった反面、一般の人々の生活が顧みられることはなかった。社会学の元祖とも呼ばれる当時の政治哲学者アレクシ・ド・トクヴィルは、「ブルジョワジーの王」のもとで国家が「株主に利潤を配当する産業会社」に等しくなったと指摘している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ハセットNEC委員長「高成長でも雇用増は限定的」、

ビジネス

米10月一戸建て住宅着工は5.4%増、許可件数は減

ビジネス

米12月雇用、予想下回る5万人増 失業率4.4%に

ビジネス

日経平均先物が急伸、高市首相が衆院解散を検討と報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「不法移民からアメリカを守る」ICEが市民を射殺、証…
  • 6
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 9
    「ならず者国家」への道なのか...トランプ、国連気候…
  • 10
    285カ所で抗議活動、治安部隊との衝突で36名死亡...…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 8
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 9
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story