コラム

ドイツ新右翼「第二次世界大戦は終わっていない」──陰謀論を信じる心理の生まれ方

2018年08月20日(月)20時30分

極右の集会に抗議して活動家が段ボールで作った独裁者たち(左からスペインのフランコ、ソ連のスターリン、ドイツのヒトラー、イタリアのムッソリーニ。2017年、ドイツのコブレンツ) Kai Pfaffenbach-REUTERS 

<国家・社会の脅威になりつつある、ドイツで広がる新しいタイプの陰謀論>

「アポロの月面着陸はハリウッドで撮影された」、「地球温暖化はねつ造」、「9.11はアメリカ政府によって仕組まれた」などの陰謀論は昔から多いが、ドイツでは新しいタイプの陰謀論が広がっており、しかもそれは国家や社会にとっての脅威にまでなっている。

ドイツの情報機関、連邦憲法擁護庁(BfV)は7月、右翼グループ「帝国の市民」の支持者が約1万8000人にまで増えており、武装が進んでいると警告。監視の強化を明らかにした。

「帝国の市民」には確固たる指導者や組織がなく、小規模な集団や個人の緩やかなネットワークであるため、メンバーの考え方にはそれぞれ多少の違いがある。しかし、多くは「今のドイツはアメリカに占領されており、正当な国家ではないため、その法に従わなくてよい」と捉える点で共通する。

なぜ、一般的に当たり前とされることを否定し、しかも客観的事実によって立証できない陰謀論に傾く人々がいるのか。心理学の最新の研究は、人が陰謀論を信じるメカニズムの一端を明らかにしている。

勢力を広げる「帝国の市民」

まず、陰謀論の一つの典型として「帝国の市民」の考え方をみておこう。

「帝国の市民」については以前に取り上げたので、詳しくはそちらを参照してもらいたいが、他の右翼集団と異なるその最大の特徴は、現在のドイツ連邦共和国の正当性を全く認めないことにある。

「帝国の市民」は第二次世界大戦末期のドイツと連合国の間の終戦協定を無効と考える。だとすると、戦争は終わっていないだけでなく、戦後のドイツ連邦共和国は正当な国家でない。だから、その法に従わなければならない義務はなく、税金を納めなくて構わない。

それにもかかわらず、多くのドイツ人が疑いすら抱かないのは、ドイツの政治、経済、文化やメディアを陰で操るアメリカやユダヤ人に騙されているから、というのだ。

市長候補から「国王」へ

多くのドイツ人にとって、「帝国の市民」の主張は荒唐無稽な世迷い言に過ぎない。それにもかかわらず、なぜこのような陰謀論が広がるのか。これを考えるために、代表的な二人の「帝国の市民」を紹介しよう。

一人目は、ドイツからの独立を宣言したペーター・フィツェック氏だ。現在のドイツ国家の正当性を認めない同氏は2012年、自ら国王を名乗り、東部ザクセン・アンハルト州の廃病院を拠点に「新ドイツ王国」の設立を宣言し、国際的に関心を集めた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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