コラム

米国によるイラン制裁の限界と危険性―UAEの暴走が示すもの

2018年05月11日(金)13時00分

フーシ派はサウジの最大の敵、イランに支援されています。そのため、この軍事介入を主導したサウジのサルマン国防大臣(現・皇太子)は、有志連合への参加をスンニ派諸国に対する「踏み絵」としてきました。部隊を派遣しなかったパキスタンに経済制裁が敷かれたことは、その象徴です。

その結果、イエメン内戦は「スンニ派とシーア派の宗派対立」、「サウジとイランの代理戦争」の様相を濃くしていったのです。

サウジにとって最も重要な「足場」は、ペルシャ湾岸の君主国家の集まり湾岸協力会議(GCC)加盟国(サウジ、UAE、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン)です。そのなかでもUAEは、サウジとともに有志連合の中核を担ってきました。さらに、イランとの関係などを理由に、2017年6月にサウジがGCC加盟国カタールと断交した際、真っ先にこれに同調した国の一つがUAEでした。

こうしてUAEは、サウジというビッグブラザーを支える忠実な弟分として、いわばスンニ派諸国の主流としての立ち位置を得たのです。また、リゾート地ドバイを抱えるUAEには、トランプ大統領の名を冠したゴルフ場もオープンしています。

サウジとUAEの不協和音

ところが、UAEとサウジの間には、徐々に不協和音が目立つようになりました。その焦点は、フーシ派と対立するハーディ大統領が、イエメンのスンニ派政党「アル・イスラーハ」と協力していることでした。

mutsuji20180511103402.jpg

アル・イスラーハは、20世紀初頭にエジプトで生まれたイスラーム組織「ムスリム同胞団」をルーツにもちます。しかし、ムスリム同胞団は米国を含む西側諸国だけでなく、イスラーム圏のいくつかの国でも「テロ組織」に指定されてきました。とりわけUAEは、独立以来、ムスリム同胞団への警戒が最も強い国の一つです。

これに対して、サウジアラビアはムスリム同胞団をテロ組織に指定しておらず、イエメン内戦でもフーシ派への対抗上、アル・イスラーハへの支援を強化。これは長年国内でムスリム同胞団を脅威として捉えてきたUAEにとって、受け入れがたいものでした。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

焦点:過熱するAI相場、収益化への懸念で市場に警戒

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米ハイテク株高や高市トレード

ワールド

ハンガリー外相、EUのロシア産エネルギー輸入廃止を

ワールド

アルゼンチン、米と貿易協定協議 優遇措置も=ミレイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story