コラム

米国によるイラン制裁の限界と危険性―UAEの暴走が示すもの

2018年05月11日(金)13時00分

そのため、UAEはアル・イスラーハとつながるイエメン政府だけでなく、サウジ政府ともしばしば対立。2017年3月には「ハーディ政権を支持するなら有志連合から撤兵する」とサウジに通告しています。

これを受けて、サウジはアル・イスラーハと距離を置き始め、アル・イスラーハもムスリム同胞団との関係を絶つと宣言。イエメン内戦は、単純な「宗派対立」でも「サウジとイランの代理戦争」でもない側面を大きくしていったのです。

南部部族連合への支援

これと並行して、UAEは徐々にイエメンの南部諸部族への支援を強化するようになりました。

もともとイエメンは、北部をオスマン帝国に、南部を大英帝国に、それぞれ支配されていましたが、双方が1962年に別々の国として独立。冷戦時代は西側に近い北イエメンと、東側に近い南イエメンはしばしば衝突を繰り返し、1990年にようやく統合されました。このような経緯もあり、イエメンは一つの国としての一体性が乏しく、南部諸部族の間には分離独立を求める動きもあります。

その南部では、UAEがイエメン内戦のなかでアル・イスラーハ系組織を攻撃し、アデンの空港などを実質的に掌握。ハーディ政権と距離を置く周辺の諸部族への支援を強化することで、イエメン政府の頭ごしに同国南部での影響力を強めていったのです。

これはイエメン政府に「UAEが混乱に乗じて南部を独立させ、傀儡政権を打ち立てようとしている」という警戒を抱かせるには十分でした。2017年3月にハーディ大統領は「UAE軍がイエメン解放のための軍隊というより、占領軍のように振る舞っている」と批判しています。

ソコトラ島の制圧

UAEにとってイエメン南部を切りとることは、フーシ派やアル・イスラーハを追い詰めるという戦略的な利益だけでなく、経済的な利益にも結びつきます

今回、UAEが部隊を展開させたソコトラ島は、各国の商船を狙う海賊が頻繁に出没するソマリア沖に浮かんでいます。近年UAEはソマリアの港湾整備などを手掛けています。つまり、イエメン南部だけでなくソコトラ島を支配下に置くことで、UAEはアラビア半島とソマリアを結ぶ海上ルートを確保できるのです。

この背景のもと、UAE政府はハーディ大統領がフーシ派の攻撃に直面し、首都から落ちる前に、ソコトラ島を99年間リースする契約を結んでいたと報じられています。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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