コラム

米国によるイラン制裁の限界と危険性―UAEの暴走が示すもの

2018年05月11日(金)13時00分

UAEのモハメド軍副司令官とトランプ大統領(2017年5月21日) Jonathan Ernst- REUTERS


・トランプ大統領のイラン核合意の破棄は、スンニ派諸国との協力を念頭に置いたもの

・しかし、スンニ派諸国を率いるサウジアラビアのリーダーシップには限界があり、各国は個別の利益を追求する傾向を強めている

・スンニ派諸国の結束の形骸化は、米国―サウジアラビア―イスラエルの三角同盟による一方的な行動をむしろ生みやすい

米国トランプ政権は現地時間8日、イラン核合意の破棄を発表。イランへの制裁が再開されます。これに対してイランは核合意に残留する方針ですが、国内では穏健派ロウハニ大統領に対する強硬派の批判も高まっており、核開発が加速する懸念が高まっています。

米朝首脳会談はトランプ流「一人相撲」になるか―前哨戦としてのイラン核合意の破棄

ただし、トランプ政権が制裁を再開しても、イラン包囲網が成功するかは疑問です。イスラエルやサウジアラビアは米国を支持する立場ですが、核合意に署名した欧米諸国やロシアは破棄に反対しています。のみならず、サウジが主導し、米国が協力を期待するスンニ派諸国の間にも、一致した協力より各国の利益を優先させる動きが広がっています

とりわけ、サウジとともにスンニ派諸国の結束を主導してきたアラブ首長国連邦(UAE)が、他のスンニ派の利益を脅かしてでも自国の利益を優先させ始めたことは、この亀裂を象徴します。スンニ派諸国に対するサウジのリーダーシップの限界は、米国によるイラン包囲網が穴だらけになる可能性を示唆します

結束のもろさを露呈したスンニ派諸国

UAEは5月5日、イエメン南部のソコトラ島で部隊を展開し、この地を掌握しました。ソコトラ島は人口6万人あまりの小島で「インド洋のガラパゴス諸島」とも呼ばれる独特な生態系や、古い城壁都市シバムなどがUNESCOの世界遺産に指定されています。

mutsuji20180511103401.jpg

UAEの行動をイエメン政府は「侵略(aggression)」と強く非難しており、サウジアラビア政府が仲介に乗り出していますが、交渉は難航しています。

UAEはしばしば「スンニ派の盟主」サウジアラビアの最も信頼できるパートナーとして振る舞ってきました。そのUAEの暴走は、スンニ派諸国の結束のもろさを浮き彫りにしたといえます。

イエメン内戦とUAE

UAEの暴走は、イエメン内戦のなかで発生しました。

イエメンでは2015年1月、シーア派組織「フーシ派」が首都サヌアを制圧。ハーディ大統領をはじめ、スンニ派中心の政府はアデンに移動しました。これを機に、サウジアラビアをはじめとするスンニ派諸国の有志連合は、イエメン政府を支援してフーシ派への攻撃を開始したのです。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

透析・手術用の品目、「安定供給図る体制立ち上げた」

ワールド

トランプ氏、NATOへの関与に否定的発言 集団防衛

ワールド

北朝鮮が固体燃料エンジンの地上燃焼実験、金総書記が

ワールド

ウクライナ大統領がUAE・カタール訪問、防衛協力で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のSNS動画が拡散、動物園で一体何が?
  • 4
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story