コラム

【イラク日報問題】「イラクにも蛙がいる」自衛官のつぶやきが日本人に訴えるもの

2018年04月20日(金)13時20分

情報公開の一環としての議論を

ただし、そもそも自衛隊派遣のきっかけとなったイラク侵攻は、それを行った米英に大きな汚点として残るもので、既に米国をはじめ各国で多くの検証が行われてきました。この点で、「非戦闘地域」を強調してイラク派遣を推し進めた歴代政権にとって具合が悪くとも、日報の公開には意味があるといえます。

のみならず、イラク日報以外の文書の開示に関しても、これらの主張や論理は一歩間違えば防衛省・自衛隊に情報開示を求めること自体を制限させるものになりかねません。

例えば、「海外では軍事関係の情報は数十年後に公開されている」と国際基準にのっとって反対するのであれば、情報公開制度そのものも国際基準にするべき、という主張でなければ一貫性がありません。

ところが、日本の場合、欧米諸国より情報公開の制度そのものが発達途上で、開示や非開示に関する行政の裁量は大きく、さらに2013年の特定秘密保護法は、これをさらに大きくしました。同法は「報道の自由ランキング」における日本の順位を引き下げる一つの要因となっています。

重要なことは、公開の基準を明確に定め、法令通りに実行することです。4月12日の衆議院安全保障委員会で自民党の中谷真一議員は「どんどん公開するのが本当にいいのか」と訴えました。「なんでもオープンにすればいいというものではない」という趣旨には賛同しますが、少なくとも与党議員なら情報公開制度の枠組みのなかで「軍事情報の公開の仕方」を検討するべきでしょう。しかし、「何十年たてば」軍事関係の情報が公開されるといった基準は、ほとんど具体的に議論されていません。

防衛省・自衛隊にとっての日報公開

むしろ、冒頭にも触れたように、結果的に日報の公開は自衛隊の活動への関心をこれまでになく集めています。認知度や理解を引き上げることは、防衛省・自衛隊にとって、国民の信頼を醸成する糧になるといえます。

もともと日本では自衛隊への信頼度が低くないものの、米国ほどではありません。

WS000226 (1).JPG

読売新聞の世論調査によると、「信頼できる組織」として日米とも自衛隊(軍隊)が首位。ただし、米国と比べて日本のそれは約20ポイント低く、政府首脳、国会(議会)、警察、病院、学校、大企業、テレビなどと比べて、その差の大きさは宗教団体に次いで目立ちます。

この差はなぜ生まれたのでしょうか。

これを読み解く一つのカギは、米国の病院にあります。米国では病院への信頼度が徐々に低下しています(それでも日本より高い)。これに関して、医療政策の研究機関カイザー・ファミリー・ファウンデーションは2015年、米国市民が考える健康問題の最優先課題が「手ごろな価格」で、その次が「透明性」だったと報告。病院などの説明や情報発信が十分でないことは、その信頼度の低下につながると考えられます。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中、高市首相と習国家主席の会談を31日開催で調整

ビジネス

トランプ氏「ガザ停戦脅かされず」、イスラエルは空爆

ワールド

エベレスト一帯で大雪、ネパール・チベット両側で観光

ビジネス

アディダス、北米の増収率が鈍化 関税が重しに
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story