コラム

アフリカの子どもに銃を取らせる世界(2)中国「一帯一路」の光と影──南スーダン

2018年03月02日(金)17時00分

ただし、これらの点に従来からのシフトチェンジを見出せる一方、深刻な人道危機の当事者となっている現地政府の立場を全面的に支持しつつ、経済的な利益を確保する点では、中国のスタンスにダルフール紛争のそれとの違いはないといえます。

2018年2月5日、東アフリカ諸国で構成される政府間開発機構(IGAD)の会合に出席したHe Xiangdong大使は南スーダン問題に関する「アフリカ自身の解決」を強調。中国はその努力を支援すると続けました。

南スーダンの問題を南スーダンが、アフリカの問題をアフリカが解決するべきであることは、原則論としては支持できるものです。

とはいえ、少なくとも中国のアプローチが実質的にキール派に肩入れするものである以上、キール派と対立する勢力にとって、その和平の呼びかけが説得力をもつとは思えません。中国は2014年以降、南スーダン向けの武器輸出を停止していますが、英国のシンクタンク、紛争武装研究所は2018年2月に「スーダン経由で中国製兵器が周辺国に拡散している」と報告。そのなかには南スーダンの政府系民兵も含まれるとみられます。こうしてみたとき、中国による「アフリカ自身の解決」の呼びかけには、イスラエルに肩入れしながら「パレスチナ和平」を説く米国と同じ限界を見出せます。

中国シフトと子ども兵

ところが、南スーダン政府はこれまで以上に中国へ傾く姿勢をみせ始めています。

2018年2月2日、米国は南スーダンに対する武器の禁輸措置を発表。米国の国内法は子ども兵を用いる政府への武器移転を禁じており、内戦が発生した2013年以降、米国政府は南スーダン向けの武器輸出を行っていません。そのなかでの「武器禁輸宣言」は、国連安保理での武器禁輸に反対した国々に対する圧力だったとみられます。

ところが、米国の「武器禁輸宣言」に南スーダン政府は強く反発。ゲイ副大統領は2月5日、米国を批判したうえで「中国、ロシアとの関係を強化する」と宣言したのです。

もともと南スーダン政府の母体となったスーダン人民解放軍(SPLA)は、スーダンからの分離独立運動を展開していた時代に、米国から支援を受けた経緯があります。冒頭で紹介した、南スーダン軍や政府系民兵による子ども兵の解放は、この問題に敏感な米国をはじめ欧米諸国への配慮から、キール派が国連のプログラムに応じたものとみられます。

その南スーダン政府が、これまで以上に中国に接近する場合、子ども兵の解放をさらに進める動機づけは低下するとみられます。のみならず、中国による資源開発がこれまで以上に活発化すれば、それだけ南スーダン軍や政府系民兵の活動が活発化することにより、どの武装集団も兵員をこれまで以上に調達する必要性に迫られることになります。それは子ども兵の「需要」がさらに高まることを意味します

こうしてみたとき、ただでさえ子ども兵の割合の高い南スーダンでは、大国間の力関係の変化によって、これまで以上に子どもが戦闘に動員される状況が生まれつつあるといえるでしょう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
※「アフリカの子どもに銃を取らせる世界(1)『電気自動車のふるさと』の子ども兵―コンゴ民主共和国」はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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