コラム

「構造的な円安」で日本経済は甦る

2024年07月09日(火)14時30分

また、日本の財政状況が悪化しているため、インフレ上昇と円安の悪循環が訪れるという「リスクシナリオ」を強調する論者もたまにみかける。実際には、大幅な円安が続いたおかげで、政府の税収は大きく増えており、日本の財政赤字は23年度時点でGDP比率3%台まで改善している。名目GDPが増えているため公的債務/GDP比率も緩やかに低下しており、日本の財政状況は、財政赤字の改善がみられない米国などよりも健全である。このため、インフレ高進と円安の悪循環が起こる、などは現在の日本にとってありえないシナリオだと筆者は考えている。


日本経済にとって「嬉しい誤算」だった

結局、これまでのような大幅な円安が続くかどうかは、先述したように、日本の金融政策(当然ながらFRBの政策も同様に影響)そしてインフレ動向が引き続き左右する。24年前半まで日銀の植田総裁は、「和製バーナンキ(バーナンキFRB議長は、米国がデフレリスクに直面した際、大規模な金融緩和を繰り出した)」として金融引締めを急がなかった。

筆者は就任当初から植田総裁が「和製のバーナンキ」として振る舞うことを内心期待していたのだが、実際には、尚早な引締めに踏み出すリスクを警戒していた。このため1ドル160円台まで円安が進むとは筆者は予想できなかったのだが、これは日本経済そして日本株市場にとって「嬉しい誤算」だったと言える。

仮に、来年以降も筆者の予想に反して「嬉しい誤算」が続けば大幅な円安は続くだろう。インフレ期待2%の実現を最重視する日銀の政策姿勢が今後も揺るがなければ、2025年以降も円安基調が続き、「構造的な円安」が定着するかもしれない。そうなれば、日本経済は1980年代までの輝きを取り戻し、多くの日本人は再び豊かになるだろう。ただ、植田総裁そして岸田政権にそこまで期待するのは難しいのではないか。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story