「構造的な円安」で日本経済は甦る
また、日本の財政状況が悪化しているため、インフレ上昇と円安の悪循環が訪れるという「リスクシナリオ」を強調する論者もたまにみかける。実際には、大幅な円安が続いたおかげで、政府の税収は大きく増えており、日本の財政赤字は23年度時点でGDP比率3%台まで改善している。名目GDPが増えているため公的債務/GDP比率も緩やかに低下しており、日本の財政状況は、財政赤字の改善がみられない米国などよりも健全である。このため、インフレ高進と円安の悪循環が起こる、などは現在の日本にとってありえないシナリオだと筆者は考えている。
日本経済にとって「嬉しい誤算」だった
結局、これまでのような大幅な円安が続くかどうかは、先述したように、日本の金融政策(当然ながらFRBの政策も同様に影響)そしてインフレ動向が引き続き左右する。24年前半まで日銀の植田総裁は、「和製バーナンキ(バーナンキFRB議長は、米国がデフレリスクに直面した際、大規模な金融緩和を繰り出した)」として金融引締めを急がなかった。
筆者は就任当初から植田総裁が「和製のバーナンキ」として振る舞うことを内心期待していたのだが、実際には、尚早な引締めに踏み出すリスクを警戒していた。このため1ドル160円台まで円安が進むとは筆者は予想できなかったのだが、これは日本経済そして日本株市場にとって「嬉しい誤算」だったと言える。
仮に、来年以降も筆者の予想に反して「嬉しい誤算」が続けば大幅な円安は続くだろう。インフレ期待2%の実現を最重視する日銀の政策姿勢が今後も揺るがなければ、2025年以降も円安基調が続き、「構造的な円安」が定着するかもしれない。そうなれば、日本経済は1980年代までの輝きを取り戻し、多くの日本人は再び豊かになるだろう。ただ、植田総裁そして岸田政権にそこまで期待するのは難しいのではないか。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

アマゾンに飛びます
2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら
都議選の敗因を「誤解」する自民党、国難に直面する「重税国家」日本にいま必要なもの 2025.06.25
強まる縁故資本主義...石破政権が「減税に一貫して否定的」な理由 2025.06.10
トランプの関税発言で一喜一憂する株式市場の行方...米減税法案の「影響」を読む 2025.05.27
米中「電撃」合意...トランプ関税に振り回された株価はどこまで戻るのか 2025.05.13
トランプ政権の迷走で高まる「世界不況」リスク...日本が取るべき金融財政政策とは? 2025.04.29
ドイツに訪れる「アベノミクスと同様」の大変化、日本が抜け出せない「緊縮病の宿痾」 2025.03.19