コラム

予想外の円安は日本経済正常化を支える

2023年05月17日(水)10時30分

2%インフレが基調的に上昇するには、ようやく始まった賃金上昇が持続することが必要だろう。それには日本経済の経済成長によって、需要超過がある程度続く事が必要条件になる。ただ米国など海外経済の減速をうけて、日本の需給バランスが改善せずに、2%インフレが定着しないシナリオを植田総裁らは警戒しているとみられる。そうであれば、先行きの経済動向については、黒田前総裁と同様(あるいはそれ以上)に慎重なのかもしれない。

現在の円安は日本経済の復調を支える追い風に

4月金融政策決定会合の審議委員の議論(主な意見)をみると、「YCCの副作用の大きさ」を強調する意見もあった。そういう主張があっても、なお2%インフレを確実に実現するために、YCCがもたらす緩和を続けるメリットが大きい、と植田総裁ら執行部は重視しているとみられる。

このまま、植田総裁がサマーズ教授が言う「和製バーナンキ」としての役割を果たし、黒田前体制を引き継ぐのであれば、筆者が抱いていた円高リスクは杞憂に終わるかもしれない。そして、現在みられている程度の円安は、日本の衰退をあらわす象徴というよりは、インフレ安定を伴う日本経済の復調を支える追い風になるだろう。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

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