コラム

社会の「分断」とは一体何なのか? その使われ方でよいのか?

2020年12月09日(水)20時25分

BET_NOIRE/ISTOCK

<ある種のバズワードと化している「分断」だが、そこに込められる意味合いは多様で曖昧だ。左右と上下の分極化は必ずしも一致しないし、「分断が問題だ」と嘆くこと自体に関わる問題もある>

「分断」という言葉が気になっている。「アメリカは分断されている」とか「大阪は分断されている」とか。最近では政治や社会を語る上でのある種のバズワードと化しているようだ。だがこの言葉の使われ方、かなり曖昧ではないだろうか。

哲学者の國分功一郎氏もツイッターで疑問を呈していた。「『社会の分断が深まっている』という表現を繰り返し耳にするが、違和感がある。いったいどのような意味で『分断』と言われているのだろうか」

曖昧さの理由の1つは、「分断」に込められる意味合いの多様さにある。ある場合は経済的な意味での中間層の縮減と上下への分極化を指し、別の場合には異なる集団間での価値観の乖離を意味していたりする。

後者については、アメリカのピュー・リサーチセンターの調査が有名だ。民主党支持者と共和党支持者の間で、環境、同性愛、移民、人種差別などに関する価値観の重なる部分が年々少なくなってきている。

こうした「左右の分極化」とも言うべき価値観の乖離は、経済的な「上下の分極化」と必ずしも一致しない。ドナルド・トランプ氏登場以降の共和党が相対的に貧しい層にも支持を広げているように、「アメリカの分断」と言っても2つの明確な集団を示せるわけではない。

何を事実と見なすかについての分断もある。日本の学術会議問題でも、アメリカの大統領選でも、「隠された真実」や「メディアが報じない事実」のような形を取った陰謀論や誤情報が大量に拡散した。

さらに複雑になるが、「分断の嘆き方」についての問題が加わる。特に非対称な権力構造が関わる分断については、無前提に「問題だ」と嘆くこと自体に固有の問題がある。

具体例を挙げよう。米大統領選の出口調査では「レイシズムが最も重要な問題(の1つ)だ」という回答がバイデン支持者で68%、トランプ支持者で30%と大きく分かれた(※)。

今年はBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動に注目が集まったが、人種差別をされてきた側の人々を中心に「これは問題だ」という声が何度上がっても、いまだに「それは問題ではない」と答える人は多い。

(※12月10日10:30 データにつき誤解を招く記述となっているため追記する。上記はバイデン支持者の68%、トランプ支持者の30%が「レイシズムが最も重要な問題(の1つ)だ」と答えたという意味ではなく、「最も重要な問題/重要な問題の1つ」と答えた人(全体の69%)の68%がバイデン支持、30%がトランプ支持だったという調査結果である。なお同じ質問に「マイナーな問題/全く問題ではない」と答えた人(全体の28%)の14%がバイデン支持、84%がトランプ支持となっている。概ねバイデン支持者の9割超、トランプ支持者の5割弱が「最も重要な問題/重要な問題の1つ」と答えた計算になる。出典:New York Times

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

-中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去最

ワールド

米政権の「敵性外国人法」発動は違法、ベネズエラ人送

ビジネス

テスラ、トルコで躍進 8月販売台数2位に

ワールド

米制裁下のロシア北極圏LNG事業、生産能力に問題
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story