コラム

名馬だらけのテーマパークを造った新疆ウイグル自治区の逸材企業家

2017年04月29日(土)16時28分

カメラマンだったが、中央アジアとの貿易で富を築いた

新聞社のカメラマンとして働き始めた陳氏だが、1993年に貿易商社「野馬集団」を起業し、中央アジア向けの事業を始めた。当時の中央アジアはソ連崩壊の影響で経済危機に陥っていた。毛皮やセメント、くず鉄など中国に必要なものが余っている一方で、砂糖やアルコールなどに生活必需品が足りていない。

そこで陳氏はひらめいた。物々交換ならば貿易は成り立つ、と。砂糖などの日用品と毛皮などを交換するのだ。かくして陳氏は最初の成功を収める。

その後も衣料品を中心にさまざまな中国製品を輸出した。「市場ニーズに合わせているだけです。必要とされているものならなんでも売ります」が陳氏のモットーだ。

シルクロードを復活させる「一帯一路」は習近平政権の目玉政策だが、陳氏は20年も前から新シルクロード事業に取り組んでいたわけだ。まだほとんどの中国人企業家が中央アジアを市場と考えていなかった時代である。陳氏の先見の明がいかほどか、おわかりいただけるのではないだろうか。

この逸材企業家はいくつもの伝説を残している。

2002年には中央アジアのテレビ需要が高まっていることに目を付けた。価格が安い韓国製品がトップシェアを誇っていたが、現地の所得水準を考えれば韓国製品でも高い。中国国内ではもはや絶滅した白黒テレビでも中央アジアならば需要があるのではないか。そう考えた陳氏はカザフスタンのアルマトイにテレビ工場を建設。2003年には50万台もの売り上げを記録した。2004年からは冷蔵庫の製造も始めている。

2004年にはカザフスタンに2800万枚ものパンツを輸出。同国大統領に会った時には「貴国の人民は平均で1人当たり2枚、私が輸出したパンツを履いていらっしゃいます」とのジョークを飛ばした。

陳氏の経営する野馬集団は現在、新疆ウイグル自治区を代表する民間企業へと成長している。資産もあれば政府とのパイプも太い。新疆古生態園の広大な土地と財宝の数々も理解できるというものだ。

汗血馬の輸入や珪化木や隕石の収集は以前から進めていたが、観光地としてのオープンは2016年とまだ新しい。まだ穴場の観光地だが、ウルムチ市を訪れた人はぜひとも訪問して欲しい。

【参考記事】大人気の台湾旅行、日本人が知らない残念な話

裏の世界にも通じて成功した企業家の目に見たもの

貿易事業から身を起こした陳氏は、観光事業という新たな分野での飛躍を目指しているが、新疆古生態園の「その先」もすでに計画している。それは競馬だ。内モンゴル自治区と並ぶ馬の産地として知られる新疆で馬関連産業を発展させたい。これが陳氏の望みだ。競馬はそのための起爆剤になると考えている。

馬はそろえた。競馬場もある。最後のネックとなっているのが政府の認可だ。社会主義国とは名ばかりで、日本以上に資本主義経済が浸透しているといっても過言ではない中国だが、ことギャンブルに対してはいまだに慎重な姿勢を崩さない。

【参考記事】中国人頼みのカジノは必ず失敗する

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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