コラム

名馬だらけのテーマパークを造った新疆ウイグル自治区の逸材企業家

2017年04月29日(土)16時28分

国際的なリゾート地を目指す海南島では実際にカジノ設備を作ってしまったホテルもあるが、いまだに認可が下りないままだ。競馬についても、「ついに解禁」との噂が流れては立ち消えになるということが何度も繰り返されてきた。

【参考記事】美しいビーチに半裸の美女、「中国のハワイ」にまだ足りないもの

陳氏は新疆限定での競馬解禁を求めて自治区の高官とともに北京市で陳情して回ったというが、いまだに解禁のめどは立っていない。彼ほどの大物企業家であっても、中央政府を動かすことは難しい。

もっとも、陳氏は焦ってはいないようだ。起業して20年あまり、中国政府とも中央アジアの政府とも我慢強くつきあい、さまざまな規制や困難を乗り越えてきたという自信があるからだろう。

私と陳氏は初めての対面だったが、またたく間に意気投合し、夜遅くまで痛飲した。中国語には「黒白両道」という言葉がある。白道(表の世界)にも黒社会(裏の世界)にも通じた人物を意味するものだ。

lee170429-4.jpg

酒席で意気投合した筆者(左)と陳志峰氏(写真提供:筆者)

新疆ウイグル自治区での貿易事業を進めるために、陳氏が公言できないようなことも体験してきたことは間違いない。そして私も、歌舞伎町で生き抜く中でさまざまな闇を目にしてきた。黒と白の世界の狭間に生きる者同士、通じ合うものがあった。

そんな私だからこそ気づけたのだろう。自らのビジネス、新疆の馬産業の未来を熱く語る陳氏の目になにやら悲しみのようなものが宿っていることに。

陳氏はまぎれもなく成功者だ。中国の規制を逆手にとり、巨万の資産を築いてきた。もし中国が、新疆ウイグル自治区が自由な世界だったならば、陳氏以外の人物も数多くビジネスで成功していたかもしれない。無数のライバルを相手にこれほどの成功を収めることは難しかったかもしれない。

ある意味で、陳氏のような凄腕の企業家にとって政府の規制は成功の源泉なのだ。だがそれでも自らの力だけで自由にビジネスができないこと、強大な権力に従うしかない状況に悲しみを抱いているのではないか。

酒を酌み交わすうちに彼の内心を理解した私だったが、その思いをあえて口に出すことはなかった。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story