コラム

知床遊覧船沈没事故から考える、名ばかりの安全対策を見直す道

2022年05月20日(金)17時45分
水深120メートルの海底で見つかった「KAZU1」の船体

水深120メートルの海底で見つかった「KAZU1」の船体 Courtesy of 1st Regional Coast Guard Headquarters-Japan Coast Guard/Handout via REUTERS

<知床遊覧船の沈没は一見船舶ならではの問題に起因した事故のように見えるが、安全対策の点でバス・鉄道・飛行機など他の輸送モードとも深く関係する事案だ>

4月23日、26人を乗せた観光船「KAZU1(カズワン)」が知床半島沖のオホーツク海で沈没し、(5月20日の時点で)14人が死亡、12人が行方不明となった。

この事故を受け、小型船舶の安全対策を有識者らが総合的に検討する「知床遊覧船事故対策検討委員会」が5月11日に国土交通省海事局で立ち上がった。さらに25日までに小型旅客船の緊急安全対策が行われる予定になっている。

社会的に大きな事故が発生した場合、内閣総理大臣の指示を受けて検討会が立ち上がり、対策本部が設置され、一斉に緊急安全対策が行われる。今回の検討会は5月のGW明けに初会合が開かれ、夏には中間とりまとめが行われる予定だ。

会合では、報道番組でも幾度となく取り上げられた以下の点が検討される。

・事業参入の際の安全確保に関するチェックの強化(役員、運航管理者の質の確保)
・安全管理規定の実効性の確保
・船員の技術向上(船長になるための運航経験)
・船舶検査の実効性の向上(検査内容の重点化)
・設備点検の強化
・利用者の安全情報の提供

安全対策実施の難しさ

2005年のJR福知山線の脱線事故(死者107名、負傷者549名)、07年のあずみ野観光スキーバス事故(運転手が死亡、乗員・乗客26名が重軽傷)、12年の関越自動車道高速バス(乗客7名が死亡、乗客38名が重軽傷)、16年の軽井沢スキーバス事故(乗員乗客15名が死亡、乗客26名が重軽傷)──重大な事故が発生するとともに検討会が立ち上がり、さまざまな安全対策が考案されてきた。

他人の命を預かり、乗り物を事故なく運転し、目的地まで送り届ける。人が行っても機械が操縦しても、事故防止は旅客輸送の永遠のテーマである。

どんな乗り物であれ、さまざまな危険にさらされる。乗り物の故障、運転する人のスキルや体調、気象状況──自分が気を付けていたとしても他の乗り物がぶつかってくるかもしれない。

そうならないためにも、日々の点検や出発前の体調、安全教育が重要だ。それに加えて、一連の動きをマネジメントする経営者や会社が安全なマネジメントをしているかチェックする機関、さらにそのチェック機関が機能しているかを見る機関が必要で、安全な移動はそうした関係者のたゆまぬ努力の上に成り立っている。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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