コラム

規制緩和の進む電動キックボード、「二輪」よりも日本に必要なのは

2022年02月16日(水)14時50分

2020年10月から実施した産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」を用いた電動キックボードの公道での実証実験の結果を踏まえて、適切なツールづくりに向けた要望、違法な車体に関する懸念などを伝えている。また警察庁とも連携するなど、一方的に普及を求めて行政と敵対するのではなく、危険対策を講じながら、中低速モビリティの整理を行ってきた。

この動きに呼応し、警察庁では前述の「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」が立ち上がり、最高速度に応じて「歩道通行車」「小型低速車」「既存の原動機自転車等」の3類型に分ける新たな交通ルールがまとめられた。

予想以上に早くヘルメットは任意となり、時速20キロ以下の車体で16歳以上であれば無免許での運転が可能になろうとしているなど、規制緩和が進んだことに驚いている。

道路空間の整備を

そんな電動キックボードだが、普及にはまだまだ問題が山積している。

車両の安全性、走行場所、使う利用者の交通ルール、周囲の理解といった電動キックボードの問題、そして持続可能なシェアリングサービスが構築できるのかといった問題だ。電動キックボードの問題は自転車と自転車シェアの問題に共通する点が多い。

都市部で電動キックボードを普及させるためには、道路空間を整備することが大切だと筆者は考えている。

道路空間がクルマ以外の移動手段にとってもやさしければ、車両の安全性に求められるものもここまで高くはないだろう。電動キックボードは立ち乗り低速モビリティで、二輪の場合は小さなタイヤが2つ付いただけでバランス感覚も問われ、不安定だ。

前述したように、日本の道路はクルマ中心で整備され、一時は自転車も歩道を走る政策がとられたため、歩道は歩行者と自転車で交錯し、他国に比べて歩行中や自転車の事故が多い。

自転車は車道の左側を走行することが徹底されるようになったが、車道を走ろうとすると危険を感じたり、横断歩道や信号機では自転車を歩行者のように扱う物も数多く残っており、交通ルールを順守しようと思っても怖くて守れない場合も多い。電動キックボードよりも安定感のある自転車ですら安心して走らない道路環境なのだ。

コペンハーゲンのように徹底した自転車道の整備が行われていたら、車両に求められる安全性はそこまで高くないかもしれないが、そのような国であっても自転車の交通ルールの教育は徹底されている。道路の空間整備が遅れている日本は、本来であれば欧州以上にヘルメット着用や交通ルールが徹底されていても不思議ではない。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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